「ブルー・オーシャン戦略」

ブルー・オーシャン戦略とは、企業が日々血みどろの競争を繰り広げている「レッド・オーシャン」から脱出し、競争のない「ブルー・オーシャン」を創造することを目指す戦略です。言い換えれば、競争を無意味にするような新しい製品、サービス、ビジネスモデルを築き上げるための戦略を指します。


このようなブルー・オーシャンのコンセプト自体は、既存の戦略論やマーケッティング論の中でも何度も触れられてきた企業の検討すべきオプションの一つですが、これを既存の戦略論の大勢=レッド・オーシャン戦略と対になる大きなコンセプトとして独立して捉えたこと、及び、これを実現するために有効ないくつかのツールや視点を提供していることが本書の独自の価値であると思います。これらのツールは、レッド・オーシャンにおける競争戦略の策定プロセスでも大いに役立つことと思います。


筆者達は、単に無人の野で市場を切り開き、独占的利潤を追求せよ、という主張をしているのではありません。おそらくそのような戦略は、短期的には成功しますが、すぐに新規企業の参入を許し、ブルー・オーシャンをレッド・オーシャンへ変えてしまうことでしょう。筆者達は、ブルー・オーシャンにおいて、効用&価格という消費者にとっての価値、価格&コストという企業にとっての価値、の双方を高めなければならない、と指摘します。つまり、ポーターはじめ従来の戦略論で主張された、レッド・オーシャンにおける「差別化or低コスト」という二者択一ではなく、ブルー・オーシャンにおいて「差別化+低コスト」の双方を追求せよ、というお話です(このようなプロセスを、"Value Innovation"と名付けています)。


大切なのは「じゃあどうやって実現するの?」という部分ですが、この点については以下のような形で答えられています。


1. ブルー・オーシャン戦略とは何か
(1) 定義
(2) 分析ツール
 ・戦略キャンバス価値曲線
 ・4つのアクションアクション・マトリクス
最終的に目指す戦略とそのためのアクションは、2.のプロセスや分析を経て、このキャンバス及びマトリクスに集約されます。


2. ブルー・オーシャン戦略策定のための指針及び原則
(1) 市場の境界を引き直し、ブルー・オーシャンを創造する上でヒント若しくは重要な視点となる「6つのパス(the six paths)
(2) 戦略策定プロセスにおける「4つのステップ」
(3) 新たな需要を掘り起こし、規模のリスクを抑制するための非顧客層の分析フレームワーク
(4) アイデア段階のブルー・オーシャンを商業ベースのビジネスモデルへ磨き上げるためのプロセス


3. ブルー・オーシャン戦略を実行するプロセス
(1) ティッピング・ポイント・リーダーシップ
以前ご紹介したチャン教授の持論と変わっていないですね。
(2) 「公正なプロセス」による従業員の巻き込み


特に2.と3.はツギハギ的な印象を拭えませんが、赤字の部分などは独自性が強かったり、既存の議論やベスト・プラクティスが端的にまとめられたりしていて、非常に有用なものだと思います。ただ、6つのパスは「おいおい、パクリじゃないの?」というほどドラッカーマーケティングの議論に酷似しています(Managing for Results, 1964)。40年以上も前ですが、それだけ彼が本質を洞察していたということなのでしょう。


全編豊富に事例が紹介、分析されており、単なる理論だけではないため読み物としても楽しめます。トヨタ(レクサス)、ソニー(ウォークマン)だけでなく、NTT(iモード)、QBハウス(ビジネスモデルそのもの)等、日本の企業もいくつか紹介されており、誇らしい気分にもなれます(笑)


戦略論についてはまだまだ勉強不足ですが、最新の議論の中では必ず抑えておくべきものなのではないかという印象を受けました。