ハードボール戦略

Hardball: Five Killer Strategies for Trouncing the Competition
ハードボール戦略: あくなき勝利の追求
George Stalk, Jr., Rob Lachenauer
ジョージ・ストークJr., ロブ・ラシュナウアー
HBR Apr 2004 (DHBR May 2005)


BCGのコンサルタントである筆者たちは、競争相手の嫌がることを冷徹にやり抜き、自己を傷つけるリスクをも避けず、徹底して勝利のために限界に挑戦し続ける企業を、野球になぞらえて「ハードボール」のプレイヤーと位置づける。他方、そのような覚悟がなく、耳あたりの良い処方箋に頼った競争に勤しむ企業を「ソフトボール」のプレイヤーであるとする。そして、トヨタ、デル、ウォルマート等の圧倒的に強い企業は、まさに「ハードボール戦略」を追求してきた勝者なのであり、いまやハードボール戦略は勝ち抜くための絶対条件なのだという。


1. ハードボール宣言
筆者らによれば、ハードボール・プレイヤーと変わるためには5つのエッセンスがある。


(1) 容赦なく競争優位を追求する
自らの競争優位を知悉し、サプライヤー等に対してその優位をためらうことなく徹底して利用し、かつそれに安住することなく、発展させ続ける。[低コストを追求し続けるウォルマート


(2) 「アンフェア」な競争優位を獲得する
ライバルが真似しようのない、追いつきようのない優位を構築する。[トヨタの低コスト・高品質の生産ライン]


(3) 間接的に攻め立てる
ハードボール・プレイヤーは、たとえ相手を正面から叩き潰せる力があっても、間接攻撃を選び、力を効率的に使う。[大規模空港を避けて戦闘を開始したサウスウエスト航空


(4) 勝利への意思を引き出す
社員の中に勝利への意思を育み、ソフトボール・プレイヤーからハードボール・プレイヤーへと変貌させる。[甘やかな対外イメージや研修ビデオの内容とは裏腹に、競争心や危機感を煽るメッセージを忘れないサウスウエスト航空


(5) 危険地帯を見極める
ハードボール・プレイヤーは、法律または社会慣習による「ライン」にも果敢に挑戦する。また、その見極めのために大きな努力も投じる。踏み込んではならない危険地帯を見極めるためにはいくつかのポイントがある。

①法律に違反するかどうか
もちろん黒は避けなければならないが、グレーゾーンで大きな競争優位を獲得できるケースもある。

②消費者に利益をもたらすかどうか
yesの場合、司法や立法から容認される場合がある。

③他社が直接の被害を受けるかどうか
他社に対する直接的で露骨な攻撃は、業界全体の反発を食らうおそれがある。

④圧力団体や利益団体の神経は逆なでしないか
彼らの怒りを買えば、企業イメージに大きなマイナスをもたらす事態を招きかねない。


2. ハードボール戦略
さらに、ハードボール・プレイヤーとなるための戦略は無数にあるが、昔も今も通用する伝統的なものもあるという。

(1) ライバルの「聖域」を荒らす
聖域とは、ライバルにとって大きな売上高をもたらして、収益の核となっている事業である。聖域を荒らす方法には様々なものがある。相手の主力商品に対して廉価な製品で攻勢をかける等。これらは、聖域を荒らす行為に対するカウンター戦略としても有効である。同様に、自らがしっぺ返しを受ける可能性がある点には要注意である。[二大電気掃除機メーカーの戦い]


(2) アイデアは堂々とパクる
ハードボール・プレイヤーは、特許で固められていない限り、ライバルの優れたアイデアは堂々とパクる。「二番煎じ」と揶揄されても気にしない。パクる相手も同業者や同地域に限らない。ただし、パクると言ってもそのまま真似るだけでは足りない。何かを加えて改良しなければならない。また、そのアイデアを導入するために社員の頭を地道に変える必要があるケースもある。[マクドナルド、ホーム・デポ、トヨタ、スティーブ・ジョブズ


(3) ライバルを欺く
真の革新的アイデアを隠すためにフェイクを入れてライバルの目を欺く場合もある。嘘ではないが核心ではない情報を発表する、別の競争優位を確保する、等。ただし、特に投資家を欺いてしまうなど、やりすぎては危険だ。[ウォーソー製紙のケース]


(4) 圧倒的な戦力を注ぎ込む
ハードボール・プレイヤーは先に述べたように間接攻撃を好むが、時と場合によっては圧倒的な力を注ぎ込んでライバルをやっつける場合もある。そのためには、組織的な一大改革も成し遂げ、大きな方向転換も辞さない。ただし、その力は確固とした競争優位をもたらすものでなければならない。さもなければ容易に反撃を許してしまう。また、世間の反応についても思いを巡らせる必要がある。[アンハイザーブッシュに対するフリトレーの反撃]


(5) ライバルのコストを上昇させる
他社のコストを相手の気づかないうちに上昇させるという戦略は割合多く採用されているらしい。[自動車部品メーカー、フェデラルモーグルとJPインダストリーズのケース]


モノノフ@安曇野
モノノフ@安曇野 posted from フォト蔵