なぜ地位は人を堕落させるのか

The Harder They Fall
なぜ地位は人を堕落させるのか
Roderick M. Kramer
ロデリック・クラマー
HBR Oct 2003 (DHBR Dec 2003)

1. なぜ権力によって人は堕落するのか
○「イカロスの翼症候群」(genius-to-folly syndrome): 頭が切れ、意欲もあり、力関係にも敏感な人間が、一時は急上昇を見せながら、突如として判断を誤り、無謀な行動に出る現象。
○この現象の原因を人格上の欠陥や道徳観の欠如だけに求めるのは粗略に過ぎる。それではなぜ若い頃にこの欠点が表われなかったのかが説明できない。
○実業界、政界、エンターテインメント業界の世界的リーダーたちにインタビュー調査を実施した結果、大企業のCEO、大手映画会社のトップ、一流ロー・スクールの学長、アメリカ合衆国大統領等を目指すwinner-takes-all市場の競争はあまりに熾烈であるため、その参加者はwinner-wants-allという考え方を抱くようになることが判明した。スター・プレイヤーはすべてを欲し、そしていつかすべてを失うということだ。
○winner-takes-all市場のプレイヤーたちは、のしあがること=凡人とは異なる行動をすることと考えている。例えば、凡人には到底見えない成功への裏道をみつけることなど。ある経営幹部の言葉が端的に象徴している。「ルールは破られるためにある。どこまで許されるか、どこまでできるかの限界を試す気持ちがなければ、上のレベルに達することは絶対にできない」。しかし、リスクを好み、ルールを軽んじると、転倒の危険が非常に大きくなる。さらに、ルールを平気で破るようになったwinner-takes-all市場のプレイヤーたちは、ルールを守る人間を侮るようになる。
○大成功に至るためには、大きな犠牲、大きな投資、時には、愛する家族を捨てるほどのもの、を必要とする。このような経験をしたリーダーほど、権力のもたらす高揚感に酔いしれるおそれが高い。彼らは、権力のもたらす役得を「当然の報酬」ととらえ、より多くを求める貪欲さを身につけることが多い。
○また、権力がもたらす数々の悦楽は、人格まで変えかねない力を及ぼす。心理学の長年の研究によれば、大部分の人間は自分の能力を過大評価しているものである。その上で、精神的な安定の源であるプライベートが乏しかったり、自己評価を修正してくれる友人がいなかったりすると、社用ジェット機で飛び回るとか、経費を際限なく使えるといった異常な経験が繰り返されることで、自分自身の能力に対する非現実的な信念が事実として頭の中に定着し、致命的な自信過剰へ発展する。そして、このような自信過剰は、リーダーに阿る周囲の人間の行動によってさらに強化される。

2. 堕落しないための習慣
○長くトップであり続ける人=堕落することのない人には、行動基準や価値観に共通点が見られる。すなわち、優れたバランス感覚と、高い自己認識力である。具体的に、彼らには以下のような日常の習慣が共通してみられる。
○「普通の生活を心がける」
 ・例えば、とあるハリウッドの経営幹部は、スターを招いたパーティーや内輪の試写会などにはできるだけ出席しないようにしている。派手な雰囲気に幻惑されないようにするためだ。アカデミー賞でさえ、家のテレビで子供や友人と一緒に寝ころんで観るとのこと。
 ・ポイントは、謙譲の念を忘れないこと。自分の中に謙譲の心を育む最高の方法は、人生で本当に大切なものが何であるか、時々思い起こすことだ。
○「自分の短所に光を当てる」
 ・本人が短所や間違いを認めておけば、周囲も厳しく責めることはない。その際、ユーモア感覚がとりわけ有効である。ユーモアに富んだ表現は、欠点・失敗の存在を知らせるとともに、それらを管理できる能力の証拠にもなる。
○「観測気球を上げる」
 ・現実を調べる努力を惜しまない。入ってくる情報を何度も入念にチェックし、自分の仮説を見直す。このような作業を日常的に心がける。
○「小さなことにくよくよ悩む」
 ・人生のほとんどにおいては、「小さなことにくよくよするな」という考え方の方が正しいが、実業界では、小さなものにつまづいて、大きくよろけるリーダーが多いだけに、細事への注意は相当重要である。
○「内省する時間を増やす」

3. リーダーシップ「監査」
○自分が転落する危機に瀕しているかどうかを知るための自己診断Qs
 ・全体像を見失い、目の前の問題の処理に追い回されていないか。
 ・耳の痛い社内の意見にどう対応しているのか。
 ・必要なときに必ず「王様は裸だ」と進言してくれる人物はいるか。
 ・自分自身に尊大な幻想を抱いていないか。
 ・自分の利益を求めるあまり、強欲な人間に変わっていないか。
 ・一息入れて、何か違うことをするか、ゆっくり休んでみてはどうか。

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