学習の心理学

Edgar H. Schein: The Anxiety of Learning
学習の心理学
Edgar H. Schein
エドガー・シャイン
HBR Mar 2002 (DHBR Mar 2003)

○強制的説得=物理的に逃げ出せない状況において、新たな信条を自らに課すように圧力をかけられること。
○筆者は、何千人という朝鮮戦争捕虜の帰還を助けるプログラムに参加、中国人による「強制的説得」のすごみを知った。
 ・抵抗勢力の組成に長けたリーダーはすぐさま隔離
 ・コミュニケーションを完全に管理、身体的暴力の脅威はほとんど目につかない程度
 ・激励の手紙はすべて検閲して没収
 ・友人グループは分裂させる
 ・捕虜たちに偽りの情報を流す。
中国共産党が戦争捕虜にしたことと、当時のアメリカ企業がマネジャーたちを教化するやり方には多くの類似点があった。
 ・退職金、ストック・オプションといった「金の手錠」
 ・個々の社員が社会独自につながるのを嫌い、社員を新人研修に送り込み、理解させたいメッセージで囲い込む
○その後、50年代後半から60年代初めにかけ、個人のクリエイティビティの向上を求める声の高まりとともに方向を転換。
 ・「教化」センターを「教育」センターへ転換
 ・社歌集を回収(IBM等)
 ・優れた人材を洗脳し、忠実で従順な社員に仕立て上げる、という方向から転換した。
○しかし、70年代から80年代にかけて、教化や愛社精神、個人のチームへの服従等を掲げて高い業績を上げる日本や韓国、台湾の企業が台頭。アメリカ企業は再度方向を転換。再び過酷な社会化が流行している。
 ・例えば、GEではジャック・ウェルチの定めた目標が絶対視された。

○学習する組織については依然未知な部分が多い。個人や小さなチームの学習を改善する方法は分かっているが、「組織としての学習」、組織全体に整合的な成果をもたらすような転換的学習を浸透させるようなモデルはまだ見出されていない。

○あらゆる学習は基本的に強制的なもの。なぜなら、既存の何かを新たな何かに置き換えるために学習するのはそもそも苦痛であるから。
○学習には二つの不安がある。前者の恐怖感の強さを考えれば、後者がなければだれも新しい何かを試そうとはしない。
 ①学習不安: 新たに何かを試そうとするときに感じる、難しすぎるのではないか、バカみたいに見られるのではないか、これまで機能してきた習慣と訣別しなければならないのか、といった恐怖。変化に抗おうとする人間本来の基本特性によるもの。
 ②生存不安: 生きていくためには変わらなければならないという現実認識。
○多くの企業は、生存不安を増大させることで学習に対する社員のモチベーションを高めようとするが、その学習対象が効果なく終わった場合、社員はマネジメントに対する信頼を失う。また、新たな学習への強い抵抗を身につけてしまう。
○本当に新しいことを学習させたいなら、経済的現実について彼らを教育し、自らのメッセージの信頼性を示す必要がある。また、社員自身が必要性を感じられるものの学習を強制することと、彼らが疑問を抱くようなものの学習を強制することは区別して考える必要がある。
○社員が学習の必要性を受け入れれば、適切なトレーニング、コーチング、グループ・サポート、フィードバック、積極的なインセンティブ等によって学習プロセスを大きく改善することが可能。

○大規模な組織変革の事例を研究すると、学習は小グループから始まり、水平方向へと徐々に広がり、やがて上向きに進展していくケースが多い。ただし、これだけでは「組織的学習」とは言えない。組織全体が学習するためには、トップマネジメントが全メンバーに新たな信条や慣行を強制的に課する必要がある。
○大規模な企業文化変革には長い時間がかかる。例えばP&Gの場合、およそ25年を要している。組織の全レベルで新たなアイデンティティと人間関係を築くには、それくらいの時間を要する。
○リーダーが社内の根本的な前提や価値観を変革することに真剣に取り組もうとするならば、朝鮮戦争の捕虜収容所で筆者らが見たような様々なレベルの不安や抵抗を覚悟すべきである。

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