転移の力

Why People Follow the Leader: The Power of Transference
転移の力: フォロワーシップの心理学
Michael Maccoby
マイケル・マコビー
HBR Sep 2004 (DHBR Mar 2005)

[Essence]

1. フォロワーの二つのモチベーションと「転移」
○人を動かすリーダーシップを論じる上でフォロワーの存在を看過することは出来ない。フォロワーはリーダーの一挙手一投足に反応するだけのパッシブな存在ではなく、固有の特徴を有する存在である。
○フォロワーを行動させる二つの力
 ・合理的なもの: 地位、金銭、機会、等
 ・非合理なもの: 無意識下にある強力なイメージや感情 →リーダーに転移
○陽性転移は期待がみたされている限り、良好な関係を生み出し、生産性を向上させることが多くの研究から示されている。
○他方、上司を攻撃すべき対象とみなしてしまうケースもある。

2. 転移のメカニズム
○陽性転移を起こしている部下は、リーダーを等身大以上に評価し、美化する。その結果、リーダーに対する寛容性や忠誠心が高まる。実像と理想像が大きく乖離しない限り、また、リーダーがフォロワーの抱く理想像を現実と錯覚しない限り、とりあえずうまくいく関係であるといえる。
○映画『チャンス』(”Being There”): フォロワーが事実無根の神話をでっち上げる典型例
○社内がストレスにあふれている時こそ、「全知全能の親からの称賛と庇護を受けたい」という欲求がフォロワーの感情を支配し、転移の影響が最もコントロール不能に陥りやすい。
 →このようなときには、フォロワーはリーダーの能力に過度に期待し、あるいは、過度に称賛されること求めるということか?
○医師に対する信頼とプラシーボ効果の関係も一種の転移である。
○元来転移は様々な形で発現する複雑なものであるが、現代の家族構成・文化の変化に伴い、さらに多様化している。
 ・女性上司に父親転移を起こすケース
 ・男性上司に母親転移を起こすケース
 ・兄弟や幼なじみ、乳母と言った過去の重要人物を転移するケース
 ・現代の組織が水平度の高い構造へ移行しつつあることと、このような変化との間には深い関連がある。
○一人のフォロワーが、一つの組織内で、複数の相手に転移を起こすこともある。
 ・直属の上司に対する、4、5歳以上の子供の視点からみた父親を転移する。
 ・他方、CEOに対しては赤ん坊から見た初期の父親像を転移する。等
○そして、転移は必ず双方向に起こすものである。
 ・リーダーからフォロワーへの過去の投影=「逆転移
 ・映画『ディスクロージャー』のケース
○なお、国によって転移のあり方が異なっている。
・例えば、アジア及び東欧系企業のマネジャーは今も伝統的な家庭の出身者が多く、父親転移を起こしやすい。
 ・他方、米系企業のマネジャーたちは母親転移あるいは兄弟転移の傾向が強まっている。
 *アメリカで、そして日本でコーチングが流行っている背景の一つではないか。

3. 典型的なケース
○父親転移のケースの特徴
 ・上司への過大評価
 ・愛され保護されたいという部下の幼児的な願望を助長
 ・部下の忠誠心を高める
○母親転移のケースの特徴
 ・部下は、実際に与えうる以上の共感と思いやりを上司に期待する。
 ・上記の期待がみたされていれば、上司の経営手腕の欠如に気づかないような場合もある。
○兄弟・姉妹を転移するケースの特徴
 ・上司よりも同僚との絆を大切にし、権威は無視する傾向。
 ・上司に対しては批判的かつ両義的なスタンスをとり、リーダーとして価値を提供しているか否かに基づいて上司を評価する。
 ・指導したり、指導されたりすることにあまり興味を示さず、むしろ仲間内の関係を築くことに重きを置く。
 ・高付加価値サービスの開発、提供において、部門横断的ネットワークの形成が求められる現代企業においては、円滑な意思決定と合意形成に欠かせない信頼関係を構築できる兄弟転移型のリーダーが必要である(byジェイ・ガルブレイス@USC)。

4. 転移への対処
○マネジャーがフォロワーの陽性転移及び陰性転移に何らかの影響を及ぼすには、自分自身の転移について正しく認識することが肝要。「内省」がそのための古典的な方法である。ただし、自己分析を際限なく繰り返すことで迅速な意思決定が妨げられる場合もあるため、一流のリーダーは第三者(家族、長年の友人や仕事仲間、エグゼクティブ・コーチ等)に依頼して自己分析の是非を客観的に評価してもらう場合が多い。
○リーダーが自分自身を理解し、本当の姿をさらけ出し、職場での人間関係から神秘的要素を取り除くことでフォロワーの転移に対処できる(ただし、投影を排除することは出来ない)。相互理解が深まり、ゲームのルールを理解すれば、投影は困難になり、現実的な姿が見えるようになる。
○その上で望ましいのは、リーダーがさらに部下の「ロールモデル」として認識されることである。そのためにはリーダーには絶え間ない大きな努力が求められる。

Bonita
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