リーダーシップの不条理

Putting Leaders on the Couch: A Conversation with Manfred F. R. Kets de Vries
HBR Jan 2004
リーダーシップの不条理
マンフレッド F.R. ケッツ・ド・ブリース
DHBR Apr 2004

[Essence]

1. 成功しているリーダーの特徴
○筆者が最初に調べるのは、EQ (Emotional Intelligence)
 ・どれくらい自省的であるか
 ・テディベア的要因: その人と一緒にいて気が置けないか、気疲れするか。
 ・有能な人材を見抜く力を持っているかどうか。
 ・チーム・ワーキングを得意とするかどうか。
○残念ながら、近年では財務畑や金融機関出身のCEOが増えており、必ずしもリーダーたちがEQを学んでいるとは限らない。
○また、ビジネススクールでもEQの向上に繋がるような刺激を受けられることはほとんどない。

2. 成功したリーダーに共通する家庭環境の特徴
○成功した男性リーダーの多くに共通するのは、精神的な支えとなる強い母親+よそよそしく存在感の薄い父親
 ・ジャック・ウェルチ
 ・ヴァージン・アトランティックのリチャード・ブランソン
 ・ビル・クリントン
○女性のリーダーは、研究を一般化できるほど数多くいないため、今の時点では説明しがたい。

3. 文化的な要因によってリーダーへの期待も異なる
○文化による人々の行動、意図、発言の相違を理解し、尊重することは容易ではないが、それなくして他の文化圏でリーダーを務めることは不可能。
アメリカではリーダーは重要人物であり、リーダーは自分を重要視するし、他人もリーダーを崇める。
○オランダではリーダーは「受難者」であり、自分を見せびらかして自画自賛するような行為は決して受け入れられない。
イスラムでは、女性の地位があまりに低いため、母親は息子を通じてのみ栄光を勝ち取ることが出来る。そのため、母親と息子との間に信じがたいほどの濃密な絆が生まれる。
○他国から押し付けられた場合を除いて国王という存在のいなかったフィンランドのリーダーシップには、民主主義的要素と、賢明に努力すれば物事は実現するという強い信念が根づいている。これに、実直で飾り気のない素直さというフィンランド人に共通する性質が相まって、フィンランドのリーダーシップを非常に優れたものにしている。

4. リーダーシップの不条理と「道化師」の必要性
○ビジネス・リーダーたちは、正気を失っているわけではもちろんないが、引きずり続けている子供の頃の行動様式と経験によって、何かに強く駆り立てられている場合がある。
○例えば、父親との人間関係がうまくいかず、母親も非常に支配的な人間であったがために、他者を信頼する能力が欠如し、マイクロ・マネジメントに陥ってしまっている起業家もいる。
○また、多くの経営幹部は、幼少のころに自尊心に受けた打撃を回復するために行動している人が多い。つまり、「お前はろくな人間にならないだろう」などという言葉によって傷つけられたナルシシズムを繕うために、それが間違っていたと証明するために、常に自分を称賛してくれる人を求めて激しく行動するのである。
○フォロワーは、往々にしてナルシスティックでカリスマ性を持つリーダーに対して、自分自身の誇大妄想を投影する。そして、物事が現実離れしていく。その背景には、過去の重要な人間との関係性(両親、兄弟姉妹、学校の先生等)を現在に持ち込み、転写してしまう「転移」(transference)という心の働きがある。転移には好ましいものもそうでないものもある。そして、悪いケースでは、「権威者」と認識した相手に対して、フォロワーは容易に盲目的に従ってしまう。だからこそ、リーダーは自省的になり、自分自身がそのような関係を創り出していないかどうか省みなければならないのだ。
○また、組織には「道化師」の存在が必要である。
 ・道化師は、リーダーに、彼が人の目にどのようにうつっているかを教える。
 ・ユーモアを交えて、リーダーの愚行と集団思考を阻止する。
 ・リーダーに遠慮会釈なく物を言い、本当の現実を告げることを厭わない。

5. なぜリーダーは仕事に埋没してしまうのか
○たいていの経営幹部が不安を抱いており、それを紛らわせるために行動に逃げ込む。
○また、シニアマネジメントレベル(中年期)において、自分の人生に対する希望を失い、鬱状態に陥り、それから逃れるためにやはり仕事に没頭する場合も多い。特に、家族との時間を十分に持てず、バランスの取れた人生を送っていない場合にその傾向は特に強くなる。彼らは仕事しか知らないからだ。

6. 健全なリーダーとは
○自らの行為に情熱を傾けている。
○自分の能力を強く信じており、物事がうまく進まなくても人のせいにしたりしない。
○自己観察と自己分析に優れており、自制心を失ったり衝動的な行為に訴えたりもしない。
○人生における失意や失望に対処する能力を備えている。
○人間関係を築き、これを維持する能力が高い。
○ライフバランスにも優れており、有意義に遊ぶことができる。
○自分の中の狂気を受け入れることができる。