生命の重み -バガボンド22

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井上雄彦
バガボンド22(講談社)

衝撃を禁じ得ない作品。巻をおうごとに深みが増していきます。

前巻のラストで吉岡清十郎は武蔵に切られました。本巻はその場面を清十郎側から描き直すところから再開します。本巻では、当主清十郎を切られ、次席にある弟伝七郎と武蔵との果たし合いを目前に控えた吉岡一統、武蔵を切ることで名を挙げようとする素浪人たち、そこに巻き込まれていく佐々木小次郎、武蔵の幼なじみである又八によるドラマが京を舞台に繰り広げられます。本阿弥光悦も傷ついた武蔵をかくまう者として登場しますが、その描かれ方も非常に魅力的です。

全編、「斬る」という殺伐としたテーマに彩られており、生命の重みをいやがおうにも感じざるを得ない作品なのですが、今回、これまでで最大の衝撃を受けたのが、清十郎の「斬られ方」でした。彼は袈裟斬りに、文字通り上半身を二つに斬られるという死に方でした。武蔵が残忍であるということではなく、彼からすれば、清十郎に斬られないために無意識に動いた結果だったのですが、その結果はあまりに無惨です。

後刻、吉岡道場に「帰還」した彼の亡骸は、すでに生命を失った「物体」と化しており、生前の彼とはまったく異なる、小さな、生気のない、そして凄惨な姿となっておりました。その場面には異様な力があり、無惨に生命を失った姿を敢えてさらすことで、逆に生命の重み、美しさを強烈に感じさせてくれます。

22巻は見所が多く、非常に印象的な巻でしたが、この冒頭の「死」以上に衝撃的な瞬間というのは、映画等他の媒体を含めたあらゆる作品でもなかなか得られないものであると思います。

井上雄彦氏。
彼はいったいどこまで高くあるいは深く、人間というものを突き詰めていくのでしょうか。今後がますます楽しみです。