カエサル死して後 -ローマ人の物語(13)

前巻から大分間があいてしまいましたね。既に17巻まで読み進んでいるのですが、すっかり記事を書くのを忘れていました。

ローマ人の物語13
ユリウス・カエサル ルビコン以後[下]
塩野七生(新潮文庫、2004年)

紀元前44年3月15日。
ユリウス・カエサル=ジュリアス・シーザーの暗殺された日。
覚えておいても損はないかもしれません。

ガリアの地を制覇し、ローマの安全保障を確立し、大規模な内戦にも勝利し、国民からの圧倒的な支持と人気を得て、ローマを新たな歴史的段階へと進ませる政治改革を進めつつあったカエサル。彼ほどの人物を暗殺するという歴史的壮挙(いい意味ではなく)をやってのけた割には、その首謀者達はあまりにお粗末でした。

「ブルータス、お前もか」

のセリフで有名なブルータスの候補者は二人いたらしいですが、そのうちの一人デキムス・ブルータスに至っては、後に生前に用意されていたカエサルの遺言状が明らかにされた後、自分が後継者の一人として信頼され、高く評価されていたことを知り、驚愕したという苦笑を禁じ得ないエピソードもあります。彼らは、「独裁者」となりつつあったカエサルを除いて「自由」を回復するつもりだったのですが、その後の絵は何もなく、あっという間に首都を逐われてしまいます。

この「反乱」を静め、カエサルの後継者として次代を争うこととなったのが、オクタヴィアヌス(後の初代ローマ皇帝アウグスティヌス)とアントニウスです。この二人の戦いには、カエサルポンペイウスのような爽快感はありませんが、人間ドラマとしては非常に魅力的です。

オクタヴィアヌスカエサルから後継者として指名され、養子となり、カエサル家を継ぐことまで決まっていた青年ですが、戦はからっきしダメ。そもそも身体も相当弱い。しかし、彼に宿っていた政治的能力と意志の強靱さをカエサルは見抜いていたようです。そして、戦の弱い彼のために、カエサルは右腕となるべき青年、アグリッパを見出し、常にオクタヴィアヌスに仕えさせていました。オクタヴィアヌスの戦いは、したがって、アグリッパによるものだったといってもよいでしょう。この二人は、内戦を終わらせ、ローマに平和を回復し、新しい時代を築くため、静かに、黙々と前進していくようなイメージで戦っていきます。カエサルのような華やぎはありません。しかし着実です。

他方、アントニウスは、クレオパトラと結婚したり、遠くパルティアへ遠征したりと華々しくはありますが、英雄としての芯の強さというか、筋というべきものがなく、徐々に徐々に力を失ってオクタヴィアヌスに破れてしまいます。途中経過でもクレオパトラへの愛に溺れているがゆえの判断の誤りなどもあり、非常に人間的ではあるのですが、上記のような堅実コンビには負けて然るべきという感じでもあります。

歴史上高名なこのクレオパトラという女性のイメージも非常に面白いです。自分の知識不足で、「ただの」絶世の美人かと思っていたのですが、なかなかどうして策士で、しかし大局観は欠けているために最終的には実をなさない、という人のようでした。塩野女史のクレオパトラ評もなかなか面白いです。

というわけで、オクタヴィアヌスが勝利を収め、内戦は終了、次巻から彼の「帝政」への密やかな改革が語られます。実はこれが結構退屈だったりもします。。。

Claremont City Hall
Claremont City Hall posted from フォト蔵
クレアモントのCity Hall前です。
一見春みたいですが、これが南カリフォルニアの冬です!
そしてちょっと北に行けば雪山もあります。
その写真もいずれ。