「愛すべき愚か者」と「有能な嫌われ者」

コーチングがリーダーを育てる

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第9章 「愛すべき愚か者」と「有能な嫌われ者」の活用
(原題: "Competent Jerks, Lovable Fools, and the Formation of Social Networks")
ハーバード・ビジネススクール 助教
 ティツィアーナ・カシャーロ
デューク大学 フュークア・スクール・オブ・ビジネス 助教
 ミゲル・ソウザ・ロボ

現在の事業環境は知識とコラボレーションを基礎としているため、人間関係の円滑化は成功の必須条件である。・・・職場内の人間関係は仕事を通じて形成されていくが、それは一部分にすぎない。たとえば、特定任務が与えられたクロス・ファンクショナル・チーム内には業務上の公的な人間関係が存在しているが、その正否を左右するのは私的な人間関係である。(p.211)

私的な人間関係。つまり、好き嫌いのことだ。
筆者等の調査によれば、人が好き嫌いの判断を下す上で二つの重要な基準−仕事の能力と好感度−があり、これらに基づいて、人の評価が次の4つのタイプに分けられたとのこと。
①有能な嫌われ者
②愛すべき愚か者
③有能な人気者
④無能な嫌われ者

そして、当然誰もが③のタイプと一緒に仕事をしたがり、④とは仕事をしたがらない。では、①②ではどちらが好まれるのか?建前では仕事である以上能力が優先されるという理屈で①を支持する人が多い。しかし、実際のところでは②が、つまり好悪の感情が優先されていることが調査の結果判明した。


そして、筆者等はこのような好き嫌いの感情は好影響と悪影響の両方をもたらすと指摘する。

○好影響の例
・好意を抱きやすい似た者同士で仕事をすれば、プロジェクトは円滑にかつ迅速に進む。
・好意を抱く知り合い同士であれば、余計な気を遣わず、意見の相違も受け入れやすい。
・人に好かれる親切ないし寛大な人は自分の知識を惜しみなく人に与えるため、開放的な雰囲気を生みだす。
・外見が魅力的で人に好かれる同僚と仕事をすれば...仕事が楽しくなる。

○悪影響の例
・似たタイプの人が集まった場合、視野が狭まる。
・旧知の間柄の場合、面と向かって意義や拒否を表明しづらい。
・いかに魅力的な人物であっても、その仕事に必要なスキルや知識を持った最適な人とは限らない。
・好き嫌いで同僚を選ぶと、仕事より遊びを優先してしまうリスクがある。


大切なのは、プラス面を維持しつつ、マイナス面をできるだけ小さくすることだ。と言いながら、最後に提示されているのは、悪影響にはとりあえず目をつぶって好影響を最大化するための方策だけなので少しガクッと来る。参考までに簡単に列挙しておこう。

○同僚同士の好意を醸成する
・レイアウトの見直し、「ピア・アシスト」の手法、カジュアルな懇親会等の活用により、親近感を増加させる。
・非日常的な研修等の強烈な体験をとおして連帯感を醸成する。

○「人気者」の力を利用する
・まず「人気者」を特定する必要があるが、その際360度評価が役に立つ。
・人気者を組織内にとどめる必要がある。
・部門間のコーディネーターもしくは新しいアイデアの伝道師

個々の能力を見れば、彼ら彼女らはトップ・レベルとはいえない。人と接する時間が長い分、むしろ平均より劣るかもしれない。ただし、それは数値化できる業績を比較した場合だ。組織が分裂せず、良好な人間関係が保たれることを考えれば、彼らの存在は成功に欠かせない。(p.224)

○「嫌われ者」を矯正する
・昇進をストップする等、「改善」のインセンティブを与える。
コーチングを施す。
・(矯正ではないが、)人に好かれる必要のない仕事に異動させる。