文明フレームワーク

文明の衝突

文明の衝突

第一部 さまざまな文明からなる世界


第一章 世界政治の新時代

本書の中心的なテーマをひとことで言うと、文化と文化的なアイデンティティ、すなわち最も包括的なレベルの文明のアイデンティティが、冷戦後の統合や分裂あるいは衝突のパターンをかたちづくっているということである。(p.21)

そして、このような「文明のアイデンティティ」は7つあるいは8つに分けられるという。

とはいえ、ハンチントンは「予言」をしているわけではない。冷戦後の世界を理解し、予測するための「フレームワーク」を提示しているのだ。

冷戦後の国際政治は文化的な要因によって形成され、異なる文明を背景にした国家やグループとの相互作用に関連するという図式は、非常に単純化したものである。多くの事柄を捨象しているし、ある部分をゆがめ、また別の部分をあいまいにしている。それでも、世界について真剣に考え、効果的に行動しようとするのであれば、現実をある程度単純化した地図なり、何らかの学説、概念、モデル、パラダイムが必要である。

歴史家のジョン・ルイス・キャディスは賢明にもこう述べた。「よく知らない土地で道を探すには、ふつうなんらかの地図が必要である。地図作成技術は認識そのものと同じく、不可欠な簡略化の手段であり、われわれはそのおかげで自分がどこにいるのか、そしてどこに向かっているかの見当をつけることができるのだ」。

要するに、必要なのはわれわれの目的に最大限に合わせて現実を写しながら現実を単純化した地図なのである。(以上、p.33)

ハンチントンによれば、冷戦末期には以下の四つのパラダイムが提起されたという。
①一つの世界パラダイム(一つの価値観で調和された世界)
②二つの世界パラダイム(e.g.南北対立)
③国家パラダイム(個々の国家による衝突・均衡)
④混沌パラダイム
しかし、これらはそれぞれに難点が多く、最も優れたパラダイムが上記の「文明パラダイム」なのだという。

この見方は明確な枠組を提示するので、世界情勢を理解し、増加する紛争のなかでどれが重要なのかを見分けるにも、また将来の展開を予測するにも適切で、政策立案者の指針となる。(p.45)

改めて考えれば、今の世界はますますハンチントンの提示したフレームワークの正しさを証明する方向へと進みつつあるのではないだろうか。