NFLヘッドコーチのリーダーシップ論

コーチングがリーダーを育てる

コーチングがリーダーを育てる

第7章 常勝チームを生み出すコーチング・スキル
(原題:"The Tough Work of Turning Around a Team")
NFL ヘッドコーチ
 ビル・パーセルズ


アメフトにはまったく疎いが、どうやらこの世界では輝かしい戦歴を持つらしいとある監督のリーダーシップ論。プロスポーツという一種特殊な場でのものではあるけれど、非常に印象的な言葉のオンパレード。順番に見ていこう。


まずは、リーダーとして「腹をくくる」ことが最初の関門であるようだ。

ジャイアンツのコーチとして就任した時、私には自信がありませんでした。世間からちやほやされ、エゴの塊のような「自称スター・プレイヤー」たちに囲まれ、どのように彼らと接したらよいのか、わかりませんでした。勝つために、何をどのように改善すべきか、選手たちに正面から向き合って提言することができなかったのです。
その結果、選手からの尊敬を集められず、彼らの態度や欠点を改めさせることもかないませんでした。もちろん、チームの連敗に歯止めをかけることなど望むべくもありません。
そのような状態だったので、シーズン終了後、私は解任を覚悟していましたが、偶然にも後任が見つからなかったため、次のシーズンも続投することになったのです。この時点で、私にはもう何も失うものはなく、自分の思いどおりにやるしかないと腹をくくりました。みずから選手たちを率い、私の指示に従ってもらうという単純明快な方針を貫くことに決めたのです。(p.165-166)

また、選手一人一人との徹底した対話が不可欠だという。

問題だらけの組織にいる者全員が駄目だと決めつけるのは、早計というものです。多くの長所が活かされず埋もれたままの者もいれば、逆に高く評価されている者でも、まだ隠されている短所があるかもしれません。
この隠れた部分を表面化させるには、一人ひとりの人間を観察し、とにかく話すしかないのです。腹を割って話しができれば、チームに貢献しているのはだれか、足を引っ張っているのはだれか、すぐにわかるものです。
無論、自分をけっして変えられない人間がいるのも事実で、結局チームのためには、このような邪魔者をなるべく早期に取り除くしかありません。(p.167-168)

さらに、「直球勝負」の重要性も指摘する。

しかし、私は次第にすすんで選手たちとけんか腰になるようになりました。というのも、それはきっぱり物事に片をつけられるチャンスだったからです。けっして、コーチの立場を利用して、自分自身が優位に立てるからではありません。
事実、相手の目を見据えて話をするまで、その人の考え、やる気の源など、なかなかわからないものです。衝突を恐れていては、けっして他人の考えや行動を変えることはできません。
ここで言っている衝突とは、もちろん相手をやっつけるという意味ではありません。選手を批判する場合は、プラス志向で話すことが大切です。私はよく「最大限の力を出していないだろ。実力はもっと上のはずだ」と選手たちに発破をかけます。
一方で、自分の目標と選手たちの目標は同じであることもはっきりさせました。「お前が成功すれば、お前自身のため、そして俺自身のためにもなる。互いに目指すところは同じなのだ」と常に語りかけたのです。(p.169)

結局、対人関係は、直球のアプローチに尽きます。特にリーダーシップを取ろうと思えば、それはなおさらでしょう。お世辞を言ったり、回りくどい話し方をしたりするリーダーより、白黒をはっきりさせ、オープン・マインドのリーダーのほうが、部下のためにもなるのです。(p.170)

小さな目標を掲げ、その達成を積み重ねていく、言い換えれば小さな勝利を積み重ね、「勝利のムード」を醸成していくことの重要性も語られる。

「試合に勝つには、チームに勝てる実力があると確信していなければならない」−これが私の信条です。自信も能力もみずから確信しなければ生まれてくることも、育まれることもありません。いかに小さな成功であっても、それを積み上げることで自信につながることを忘れてはいけません。(p.171)

すぐに手の届く小さな目標でも、一度達成されると、「自分たちにもできるのだ」というメッセージが頭にインプットされるものです。そしてまた、新しい目標を掲げる。そうしているうちに連敗から脱し、常勝チームへと変貌していくのです。(p.172)

最後に、人材論。筆者からすると、「大した評判がなくとも、自分とチームが成長するには何が必要なのかを理解し、そのための努力を惜しまない選手こそ、適材である可能性が高い」とのこと。

私は心理学者ではありませんので、相手がどんな性格なのか、また自分との相性がよいのかなど、まったくわかりませんし、問題にすらしていません。さらに、新しい選手がチームにうまく溶け込めたか否かも、まるで気にしていません。
私の願いはただ一つ、選手たちに私の勝利に対する思い入れと同じくらい、フットボールに情熱を持ってもらいたいということだけなのです。
これまでの経験から、私はまず自分と同じ目標と情熱を持つ人間をチームに招き入れます。そして、あれやこれやとプレッシャーを与えながら、最高レベルでのプレーを究めさせる。そうすれば自然とトップの座は獲得できるものだと信じています。(p.175)

フットボール違いですが、是非、サッカー日本代表の監督にお招きしたい気がするのは私だけでしょうか。