コーチとしてのエグゼクティブの役割

コーチングがリーダーを育てる

コーチングがリーダーを育てる

第1章 失われた活力を甦らせるコーチング技法(原題"The Executive as Coach")
ペラグリン・パートナーズ パートナー ジェームズ・ウォルドループ
ペラグリン・パートナーズ パートナー ティモシー・バトラー


よいコーチはよいマネジャーである

○本稿ではエグゼクティブがよりよいコーチとなる教訓を紹介


○部下のマネジャーの問題行動を認識する
・問題マネジャーと周囲の人々との関係を観察することが第一歩。

そうした状況における問題行動理解の系統的方法とは、ジャーナリストが事件情報を収集する時のように、いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように、と質問することである。

・問題行動の原因を特定することは大変難しい。それが最近始まったことであれば、マネジャーの生活上の何らかの要因が影響していると考えるのが賢明かもしれない。が、その事実を知るためには、まずコーチングを受け入れるという信頼関係が成立している必要がある。
・対象人物の望ましくない行動だけでなく、望ましい行動にも注意を払ってはじめて、その人物の全体像が明らかになる。
・観察期間は3ヶ月からそれ以上になる。時にはもっと早く結果が出ることもある。十分な情報が収集できたか否かというコーチ本人の判断によって決まる。
・影響を測定する場合には、次のような質問について考えてみるのもよい。

過去三ヶ月の間に扱った問題のいくつがこの人の行動によるものだったのか。組織が望ましくない行動を黙認したら、それは他のメンバーにとって何を意味するのか。組織にその人物がいなければ、どのような職場環境になるのか。そのマネジャーが休暇で不在なら職場環境はどうなるのか。

・信頼している他の人の観察も参考にするとよいが、対象人物自身のクレディビリティ確保と、その人物からの信頼の確保のために、非常に慎重に行われる必要がある。一般的には、コーチ自身の同僚との議論に限るべきである。


○問題行動の程度を評価する
・コーチが明らかにしなければならないのは、その習慣がどれくらい堅固に確立されたものであるかということ。深く染み込んでしまったものなのか、容易に変えられるものなのか。そのマネジャーの性格に基づいたものなのか、深い意味を持たない反応なのか。その人の本質に属するものなのか、それとも単なる表現の部分なのか。
・問題行動が性格に基づくものなのかどうかを明らかにする3つのテスト:①その態度が異なる状況でも見られるパターンの一部であるか否か。②問題行動が長期間にわたって見られるか。③単独ではなく、複雑なパターンとして表出しているかどうか。
・頻度と定着度のマトリックス+影響度の評価
・行動変容が可能なのは、それが自発的である場合に限られる。
・また、その人が将来変容するかどうかは、これまでに柔軟性があったかどうかでよく分かる。


よいコーチの条件

○効果的なコーチとなるためには、コーチ自身に自己反省と行動変革が必要となる。
・特に、成功したエグゼクティブの典型的な行動様式と理想的コーチの特性は大きく異なるため、コーチになるとはどういうことなのか、具体的な相違(本論文中で示されている)と自分自身の特性に基づいてしっかり自問自答する必要がある。
・「エネルギッシュで分析的、そして組織志向の強いあるエグゼクティブが、スケジュールを守らないマネジャーのコーチングをした」ケース

 組織の長期的利益のために貴重な資源を蓄えることを目標とするコーチは、コーチングの即効性にとらわれているコーチよりも成功している。長期的な視点でコーチングをとらえているので、性格の対立を気にせず、コーチングが本来の仕事上の責任であることを認識している。
 このような積極的態度を維持するために、次の二点を心にとどめておくとよい。一つは、どんなに有能な人材でも新しい地位にふさわしくなるには、時として支援が必要になることである。コーチングは失敗を食い止めると同時に、成功を確実にするものである。
 二つめは、ほとんどの人が、特に組織のキーマンとなる目的志向の強い人材は、有能でありたいと望んでいる。彼らに対して送るべき言葉は、「みんながあなたを好きではない」ではなく、「あなたはまだ実力を十分に出しきっていない」である。


面接での留意点

コーチングについて切り出す最初の面接では十分に注意する必要がある。
・ビジネスの他のミーティングと同様に十分な計画を立て、主題を静かに切り出す。
・重要なプレゼンの準備のように、声を出して事前に練習するのもよい。
・とにかく誠実に、落ち着いて、優しく接することだ。


○対象となるマネジャーは、最初から自我をむき出しにしてくる可能性が高い。
・自分は評価されていて、成長の余地があるのだと本人に感じさせる必要がある。
・否定的なフィードバックは、心からの肯定的な2つのメッセージで挟むことでショックが和らげられる。


○もし相手が抵抗し続けたら、そのままにさせておく。
・一日二日熟考すると、コーチのアドバイスをかなり受容できるようになる。
・ただし、コーチは、一度話を切り出したら、最後までやり通さなければならない。


○アメとムチの使い分け
・相手が傷つきやすい性格ならアメ(心からの肯定的フィードバックや期待)を多く使う。
・逆に、問題のマネジャーが頑固ないし鈍感なら、ムチを多く使わざるをえない。


コーチングと公式の業績評価は区別する
コーチングはあくまで、マネジャー個人にとっても組織にとっても成長の機会である。


○いくつかの有用なスキル
・積極的傾聴
・行動と反省による学習支援
・易しいことから難しいことへの移行
・継続的なミクロの目標を設定
・「テープ遅れ」
・台本書きとロールプレイング
・関係修復の話し合いを持たせる
・肯定的なフィードバックをする