Good to Great And The Social Sectors

GOOD TO GRT & SOCIAL SECTOR PB (Good to Great)

GOOD TO GRT & SOCIAL SECTOR PB (Good to Great)

『Good to Great』」(日本語版は『ビジョナリー・カンパニー2』)の追加版、学校、病院、教会、NPO等のsocial sectorに関する論文です。コリンズ氏によれば、元々『Good to Great』第二版で章を追加するという案もあったようですが、読者に無駄にもう一冊買って頂くのも忍びない、ということで追加部分だけを新たに出版することにしたようです。調査自体は引き続き行っていき、いずれより包括的なものにまとめたいと言っておられます。しかし、たった一章分、30ページ+αで論文のボリュームしかないものをこうやって出版したりするんですね。12ドルもしました。


なお、既に邦訳版も出版されております。

ビジョナリーカンパニー【特別編】

ビジョナリーカンパニー【特別編】

帯をよく見るとコリンズ=ドラッカーの後継者になっていますね。たしかに考え方は非常によく似ている気はしますが。生前のドラッカーとも「相思相愛」だったようですし。


さて、例によって中身を簡単にまとめておきたいと思います。


Good to Greatで示されたいくつかの発見をsocial sectorに適用するにあたり、コリンズ氏は5つのポイントを指摘しています。順に見ていきましょう。


ポイント1:「great」の定義
企業がいかにGreatになれるかについて論じられた『Good to Great』では、「great」の定義をfinanceの側面から定義していました。低迷期の後、あるターニングポイントを超えて以降、マーケットのリターンの3倍以上のリターンを15年連続で維持し続けた企業、というのがgoodからgreatへ成功裏に移行した企業の定義でした。当然、social sectorではこの定義は使えませんので、第一にどうやってgreatな組織を定義するか、という問題が生じるわけです。

端的には、その組織のミッションに照らして、定性的なものであれ、定量的なものであれ、アウトプットでもってgreatであるか否かを判断せよ、と言っております。正確には、該当する組織を洗い出すために定義を定めるというより、social sectorに属する組織の人がどのような「greatさ」を追求すればいいのか、に関するひとつの考え方を示しています。この点は徹底した調査に基づいて原則を探し出そうとした『Good to Great』本体の考え方とは明らかに違うようです。より厳密な考証は何年先かに著わされるであろう、本当にsocial sector版Good to Greatを待つしかないですね。

なお、参考となるフレームワークとして、greatnessを見る際の3つの切り口を提示してくれています。第一が、優れたパフォーマンス。これは分かりやすいですね。第二が、独特な影響力。これは言葉からはよく分かりませんが、例を見る限りでは、第一の点の本業のパフォーマンスの結果として、その組織の優れた手法が模倣されたり、街の人がその組織を誇りに思ったり、といった形で間接的に影響を与えることのようです。第三が、優れたパフォーマンスや影響力が永続すること、です。


ポイント2:レベル5リーダーシップ
そして、どうやってgreatnessを達成するか、ですが、やはり最初に来るのはビジネスと同様、レベル5リーダーシップです。ただし、social sectorの場合は、リーダーに強力な権力がない場合が多く、トップダウンで組織を動かすことが難しく、レベル5リーダーシップがより強く求められると指摘されています。例えば大学などにおいては、既にtenureを得ている教授達に対しては、学部長といえども強制的な命令権はなく、したがって彼らを動かそうとするならば、人格的な影響力や信頼、説得力等が必要になるため、利己心を離れて何が何でもミッションを果そうとするレベル5リーダーでなければ変革は不可能だ、というようなイメージです。


ポイント3:social sectorに独特の制約の下での「First Who」
social sectorには、給料が低い、クビにできない等のビジネスとは違った人事面での制約があります。したがって、まずは優れた人間を確保しようという「First Who...」のアプローチは容易ではありません。

コリンズ氏はここで便利な「答え」を示してくれているわけではありませんが、提供されているケースが非常に秀逸です。とある公立高校の科学部長に就任したリーダーが、組合の力が強く不適切な人を「バスから降ろす」ことはできなかったものの、優れたパフォーマンスを示さない限りtenureを付与しないという形で徐々にとびきり優秀な教師だけを集めていき、やがてそのような教師の数が閾値を超えると、息苦しくなった不適切な教師達(既にtenureを得ている)は自ら「バスを降り」始めました。

この事例のように、「不適当な人材を辞めさせる」という選択肢が難しい以上、採用や昇進の面接に一層力を入れる必要がある、というのがとりあえずのコリンズ氏の結論でした。


ポイント4:修正版ヘッジホッグ・コンセプト
ヘッジホッグ・コンセプトをすべての戦略や意思決定の基準にすべし、というのはビジネスと同じですが、経済的原動力(Economic Engine)の部分だけ注意が必要です。social sectorにはprofitという概念がほぼないからです。そこで、「カネ」だけでなく、有能な人材やボランティアが割いてくれる「時間」、組織の持つ「ブランド」などを主な内容とする「Resource Engine」をEconomic Engineの代わりに用いるべし、としています。特に、ビジネスの場合に重要だった、「profit per x」というコンセプトはまったくここでは適用されません。


ポイント5:はずみ車(flywheel)を回してブランドを築く
最初はなかなかうまくいなかないが、成功を重ねて行くにつれて成功が成功を呼び、より熱心なサポートやコミットメントが集まっていく、という「はずみ車」のイメージはビジネスの場合もsocial sectorの場合も同様です。が、主にプログラム・ベースでのファンディングが中心のsocial sectorでは、なかなか車輪が自律的に回転し始める(どんどんお金が集まってくる)という形には成りがたい。

そこで、ビジネスとは違って、finance(資本や利益等)に直接フォーカスするのではなく、目に見える成果をどんどん上げていくことで組織の「ブランド」を強化していくようなイメージを持つのがよいとコリンズ氏は指摘しています。ブランドが強化されることによって、より多くの人の協力が得られ、より多くの資金が得られるかもしれない、というわけです。


と、全体を振り返りながら書いてみると、この小冊子単独ではそれほど印象的なことは書かれてませんね。いずれ登場するであろう完成版に期待、というところでしょうか。