ハイフライヤー

ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法

ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法

最近ほとんど外れの本に当たらない。ありがたいことだ。本書もリーダーシップ開発に関する理論を提供するものとして非常に卓越していると思う。ちなみに、筆者のマッコール氏はUSCの教授だ。


しかし、驚くほど読みにくい。まったく体系的に論じられていないのだ。まるで全部書いた後に、後から各章をわざわざひっくり返して順番を入れ替えたみたいだ。『考える技術・書く技術』のバーバラ・ミントが読んだら怒るんじゃないか(笑)、そう思えたほど。単純に僕の頭が悪いだけかもしれませんけれども。


というわけで、以下、本に書かれた順番どおりではないけれど、そのエッセンスを自分なりの理解に基づいてごく簡単に紹介したい。第一に、本書のすべての出発点は、「リーダーは育成できる」という確信にある。これについて筆者は、「リーダーは生まれつきもあり、つくられることもあるけれども、たいていはつくられるものだ、と言いたい」と言う。「言いたい」っていうのはちょっと頼りないけれど。

ちなみに、元マイクロソフト日本法人社長の成毛氏は、「リーダーとは育てられるものではなく、天性の資質によってなるもの」という持論を持たれている(『リーダーになる極意』(2005年、PHP研究所、p.104))ようだけれども、個人的にはリーダーシップは開発可能であると考えたいし、コッターやベニス始め、多くのリーダーシップ論の第一人者が「育成可能」と断言している。とりあえず、少なくとも、リーダーとしての属性やスキルを分有した人材の開発は可能だろう。


少し脱線したが、「リーダーは育成できる」との確信に基づいて、マッコール教授は「企業はリーダーシップ開発を通じて戦略的優位を築かなければならない」と指摘する(第8章)。その根拠として7つの事例を挙げているが、例えば、①企業は必要とするリーダーを必ずしも外部から採用できるとは限らないし、外から採用しようとすればいずれにしてもコストが高くつき、そのコストを回収できるとは限らないこと、②リーダー育成に失敗し、リーダーが「脱線」(業績不振により解雇されたCEO、マネジャーの立場になって成果を出せなくなる人、等々)してしまった場合、そのコストはやはり相当高くつくということ、といった点を指摘している。


では、いかにしてリーダーを育成するか。この点については、リーダーは経験を通してこそ最も効果的に成長できると言う(第3章、第5章)。したがって、育成の対象とする者を選抜する上でも、「学習する能力」が高い者を選ぶことが重要なポイントとなる。なお、本書の最も素晴しい点の一つとして、この成長を促す「経験」を4つのカテゴリーに分けてパターン(①7種類の課題、②他の人とのつながり、③修羅場、④研修プログラムや仕事外の経験)を示してくれている。これは人材育成を考える上でも、また自分自身のキャリアプランを考える上で非常に実践的で有用なモデルであると思われる。

ちなみに、「選抜」に際して、いわゆる「コンピテンシー・モデル」に基づいた人材の評価を行う場合があるが、このモデル(教授は「到達点アプローチ」と呼んでいる)は開発のプロセスを阻害する可能性があり、育成の観点からは適切ではないと言う。代わりに、育成・成長の進捗状況を評価する上で活用するのがよいと指摘している(第5章)。


さて、では学習能力の高い者に対して、どのように「経験」を与えればよいか。この点については、教授は大きく二つの視点から重要な考え方を提供している。第一に、将来のリーダー候補に対して、どのような能力を持つことが求められるか、その能力を得るためにどのような経験が求められるかは、企業の事業戦略と価値観で決まる(第4章)。この点については、事業戦略からブレイクダウンして必要な経験を明確化する上で実際に使えそうなフローチャートも用意されている。

第二に、必要な経験が定義されたことを前提に、次にでは誰をどこに配置すればよいのか(「経験」は具体的なポストにおける仕事を通じて得られるとの前提がある)。ここでは、AリストBリストというユニークな考え方が提示されている(第6章)。Aリストとは、そのポストを現時点で満足にこなせる人材のリストだ。Bリストとは、もう少し成長すればそのポストの責任を果たせる、言い換えれば、そのポストで成果を上げることによって一層の成長が見込まれる人材のリストだ。もちろん、短期的な業績の悪化を招く可能性もあるが、リーダーの育成を図る上ではBリストの人材に重点を置く必要がある。

加えて、補完的にこのようなリーダー育成という視点からローテーションを行う公式のプロセスがない場合の「ゲリラ戦」についても言及されている点が面白い。


最後に、このような人材育成をする上で、当然考えなければならないのは育成される側のことだ。いかに慎重に先発された優秀なリーダー候補であっても、人はそう簡単に変わるものではない。周囲が協力的でなかったりしたらなおさらだ。そこで、育成を行う側であるマネジメントが提供すべき「触媒」についても言及されている(第7章)。膨大な「人が変わらない理由」のリストに分析に基づき考えられた、フィードバック情報の改善、インセンティブとリソースの提供、変化のための努力の支援(期待、システムの変更等)、の3つの支援策だ。