Good to Great
Good to Great: Why Some Companies Make the Leap...And Others Don't
- 作者: Jim Collins
- 出版社/メーカー: HarperBusiness
- 発売日: 2001/10/01
- メディア: ハードカバー
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授業の予習で半分ほど読んで放置していたGood to Great。今更ながら全部読み直してみた。やはりgreatな力作だ。多くのビジネススクールで教科書として採用されているのも理解できる。ちなみに、日本語版も出ているらしい。
- 作者: ジム・コリンズ,山岡洋一
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2001/12/18
- メディア: 単行本
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本書は、ある低迷期間を経た後、15年以上の長期にわたってマーケットの3倍以上のリターンを叩き出している企業を「good-to-great comanies」と定義し、彼らがいかにしてgreatな企業へと飛躍することが出来たのかを厖大な調査に基づいて明らかにしている。しかもその過程で、上記の定義には当てはまらないが、それでも業績の良い企業(good companies)を各great企業の属する同一産業の中から選び出し、また、ひとたび非常に高い業績を叩きだしたがそれが継続しなかった企業を別途選び出し、good-to-great企業(日本語版ではなんて訳してるのだろう!?)と比較することでよりエッジの利いた、より説得力のある分析を行っている。
筆者等によれば、good-to-great企業には明確に共通する行動・思考様式があり、かつ、比較企業のそれとは明らかに違う。以下にエッセンスを紹介しよう。
LEVEL 5 LEADERSHIP
good-to-great企業のCEOは、組織の改革に対しては一種狂気じみたほどの強固な意思を持っているが、人間としては非常に謙虚で自分の功をひけらかすこともない。比較企業のCEOたちの多くが「俺のお蔭で企業再生は成ったのだ」と言いがちなのに対し、LEVEL 5 LEADERたちは部下や市場動向に成功の要因を見出し、失敗の責任は自らに帰す。比較企業のCEOたちがメディアで一時的に大いに称揚されては叩かれる、というパターンを繰り返すのに対し、good-to-great企業のCEOたちはその名前すらほとんど一般に知られてなかったりする。しかし、彼らは目立とうが目立たまいが、そんなことはお構いなしに、決して揺るがない信念を持って、妥協することなく企業の再生に取り組み、成功に導くのだ。
「どうやったらLEVEL 5 LEADERになれるの?」というのが当然の疑問ではあるが、本書ではその答えは示されていない。ただし、以下に掲げる具体的な企業やリーダーのあり方こそがLEVEL 5 LEADERの思考・行動様式であるため、まずはそれを模倣するところから始めてみてはどうか、と提案されている。
FIRST WHO... THEN WHAT
good-to-great企業のリーダーたちは「まず我々は何をすべきか」とは考えない。「まず誰をバスに乗せるべきか」を考える。正しい人間をバスに乗せれば、彼らによって正しい戦略は生み出され、組織変革のプロセスも効果的に進んでいくのだ。他方で、比較企業の多くでは、圧倒的に有能かつカリスマ的なリーダー+その他大勢の支援者たち、という構図に陥るパターン多い。これらの企業でも、確かに一時的には華々しいほどの成果が上がるのだが、そのリーダーが去った後は急激に業績が悪化する。そのリーダーの在任中に既に凋落が始まり、当の本人が放り出されるケースもある。この場合、この有能なリーダーがすべてを考え、指令を下し、その指令に答えうる人材を採用、配置するというパターンになっているのだ。
また、報酬のシステムも実はほとんど影響を与えないことも分かった。正しい人材は、自らをモティベートすることのできる。したがって、問題は人材にどのように報いるかではなく、どのような人材を採用するか、なのだ。
CONFRONT THE BRUTAL FACTS
good-to-great企業は厳しい現実を直視することを忘れない。例えば、彼らはどんなに深刻な倒産の危機にあってもその現実から目を反らさず、状況を正しく理解し、同時に、必ず逆境を跳ね返し、業績の回復、更なる成長を成し遂げるという信念をなくさない。正しい現実を見なければ正しい戦略も存在しえないし、強固な信念がなければ長い変革の道筋も歩み抜くことはできない。他方で、比較企業の多くは現実を直視せず、甘い夢を抱き、失敗するケースが多い。
「現実」を知るためには、リーダーたちは真実が自らに届くように意識的に工夫することが不可欠だ。本書では、その具体的な方策として、答えではなく質問で導くコーチング的なアプローチや、徹底した対話、ディスカッションノ重要性が指摘されている。
HEDGEHOG CONCEPT
現実を踏まえ、次に明らかにすべきなのは、自らがどこを目指すのか、に関するクリアなイメージである。すべての意思決定に対して指針をもたらしうるような、強力かつシンプルな指標。本書ではそれをヘッジホッグ・コンセプトと呼んでいる。正しいヘッジホッグ・コンセプトを導き出すためには、以下の3つの視点(three circles)から繰り返し議論を行う必要がある。
①WHAT YOU ARE DEEPLY PASSIONATE ABOUT
②WHAT YOU CAN BE THE BEST IN THE WORLD AT
③WHAT DRIVES YOUR ECONOMIC ENGINE
good-to-great企業は、人々の情熱を引き出すようなビジネスもしくは理念、他のどの組織にも負けないような価値を生みだせる製品・サービス、存続・成長し続けられるような財政的な原動力という3つの観点すべてをカバーする包括性と、シンプルさの双方を実現する戦略、ビジョンを獲得しているが、比較企業のほとんどはそうではない。
重要なことは、ヘッジホッグ・コンセプトはすぐに見つかるものではないということだ。長期間にわたる粘り強い対話と議論の中で始めて具現化するものなのである。
CULTURE OF DESCIPLINE
ヘッジホッグ・コンセプトを実現するためには、1人1人の社員が自発性(自由)と責任意識を持って行動するような規律ある文化を形成する必要がある。規律ある文化といっても、独裁者的なCEOが上から押しつけるものであっては意味がない。多くの比較企業で見られるように、彼がいなくなればそのカルチャーは喪失する。規律ある文化を形成するためには、「何をしないか」という観点も重要であり、ヘッジホッグ・コンセプトとthree circlesに照らして「やめることリスト」を作ることも提案されている。このような考え方は特に予算策定プロセスで重要だろう。
TECHNOLOGY ACCELERATORS
特に現代においては、テクノロジーも重要であるが、順番を間違えてはならない。ヘッジホッグ・コンセプトの実現に資する限りにおいて、テクノロジーの導入には意味がある。脈略もない新テクノロジーの導入は、多くの比較企業の例のように、必ず失敗に終わる。
これらの特色に彩られるgood-to-greatのプロセスは、長い時間をかけて、重層的に少しずつ進展していくものだ。筆者はこれを、超巨大な車輪に例えている。最初は一生懸命押してもほとんど動かない。何度も何度も押し続けると、少しずつ少しずつ動き始め、やがては弾みがついて勝手に回り始める。それと同じように、good-to-greatの道のりは、様々な、ヘッジホッグ・コンセプトの下で整合性のあるプロジェクトを、少しずつ少しずつ成功させていくうちに、徐々に多くの人がそのプロセスを信じるようになり、より大きな力が生まれ、やがて気づいたら大きな変革が成し遂げられている、というパターンを取るのだ。他方で比較企業の多くは、様々な華々しい改革プロジェクトを掲げては失敗し、というプロセスを繰り返し、車輪は回りかけたり止まったり、逆回転をしたりという迷走を繰り返す。
書いてあることは非常にシンプルで、「当たり前じゃん」と思えなくもない。しかし、真実をついた理論や言葉は得てしてそういうものだ。この「当たり前」的な発見も、膨大な事例を読みながら追っていくと大変な説得力がある。
ちなみに、どこかで誰かの「Good to Greatで挙げられたgood-to-great企業は、既にほとんどgraetな企業ではなくなってしまった」という記述を目にした。真偽は分からないけれど、筆者には是非その原因究明をやってもらいたいものだ。もしその原因が上記のような行動様式から外れたがゆえであれば、本書で示されているフレームワークにもより一層の説得力がもたらされるというものだ。