ウェブ進化論 -本当の大変化はこれから始まる

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

これは偉大な作品だ。これから1〜2年は「必読の書」となるのでは(多分賞味期限になる頃には次の梅田作品が登場するに違いない)。


僕にとってこの本は以下の点で感銘を与えてくれるものだった。


第一に、現在進行中のネット世界の成長のポイントを、「三大潮流」と「三大法則」という2つの切り口からきれいに解き明かしてくれていること。ご参考までに、「三大潮流」とは、①オープンソース、②チープ革命、③インターネット、の3点。「三大法則」とは、①神の視点からの世界理解(俯瞰視点)、②ネット上に作った人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏、③(≒無限大)×(≒ゼロ)=Something、の3つの法則。なんて言っても並べただけでは意味不明ですので是非手に取ってみて下さい(笑)。


第二に、「こちら側」と「あちら側」という斬新な「言葉」を提供してくれていること。こちら側というのは、現実の世界のことで、ITの世界で言えばPCやネットインフラ等のphysicalな世界のこと。他方、「あちら側」というのはまさにインターネットによって築き上げられた世界のこと。映画『マトリックス』の世界で言えば、人間発電所とマシーンシティ+ザイオンの存在するphysicalな世界が「こちら側」で、マトリックスの世界が「あちら側」。これからのITビジネスやウェブによって変容していく世界を語る上で、この言葉ほど有用なコンセプトは存在しないのではないか、と思えるくらい便利な捉え方だと思う。


第三に、グーグルが成し遂げつつある革新的な変化を分かりやすく示してくれていること。彼らがやろうとしていることは、大げさに言えば、カオス渦巻く「あちら側」の世界に秩序をもたらし、新たな世界を創造しようとしているということではないか。梅田さんは「知の世界の再編成」と表現しているが、この「知の世界の再編成」が成った暁には、「こちら側」も大きな影響を受けるだろう。物事の考察の仕方、表現の仕方、ビジネス・ソリューションの見つけ方、勉強の仕方、すべてが変わってきて、新しい「あちら側」の世界を前提にして育った世代とそれ以前の世代とでは、知的生産性においてとてつもなく大きな違いが出てくるのではないだろうか。


また、付加的にではあるが、あまり他ではお目にかかれないグーグルの組織マネジメントのあり方もかいま見せてくれているがこれも非常に勉強になる。加えて、「世界をよりよいものにする」というグーグルの理念と、実際にアドセンスを通して実際に力のある所得再分配のシステムを創り出している力にも圧倒される。この本を読んでからはグーグルを見る目が変わった。


その他、ブログの画期性、ロングテールオープンソースWisdom of Crowds等、現在のウェブを語る上で欠かせない概念も分かりやすく説明されている。


そして、この本に何よりの味わいを加えているのが、全編にあふれるこれからの世界に対する梅田さんのオプティミズムだろう。得てしてこの手の本は「日本は遅れている」「このままではまずい」「若い世代よ、ナントカセヨ」みたいな警世的な内容になりがちだが、本書は希望に満ち溢れている。決して「愚かなるオプティミズム」ではなく、淡々と現実を示しながら、「これはチャンスなのでは?」と思わせるものがあるのだ。実際、著者もこれまでのエスタブリッシュメントの階段を上っていくようなキャリアの積み方から一転し、次代を牽引する若者世代との交流、支援に相当な力を投入されているようだ。そういう意味では、「希望の書」でもある。梅田さんがシリコンバレーで培った良質なオプティミズムがにじみ出ているのかもしれない。


今読んでる本をとりあえず置いておいて、まずこれを読むべし、と言いたい良書。