ヒルズ黙示録

ヒルズ黙示録―検証・ライブドア

ヒルズ黙示録―検証・ライブドア

快著です。同級生の直樹氏から薦められたものですが、最近読んだ本の中でも最も知的興奮を覚えるものでした。本文中、何人か友人の名前も実名で掲げられていて、そういった意味でもドキドキしました。


「検証・ライブドア」とはありますが、ライブドアだけが焦点ではありません。ライブドア以前からニッポン放送を狙っていた村上ファンドの動向から、ライブドア・フジテレビの戦い、楽天・TBSの戦い、その裏面で暗躍する村上ファンドホリエモンの選挙戦、ライブドアの「自社株食い」のスキーム、地検特捜部による「国策捜査」的な側面、等々、一連の騒動とその実情、implicationを圧倒的な事実に基づく迫力で描いています。


正直、朝日新聞は最も嫌いな新聞の一つなのですが、大鹿記者のジャーナリストとしての気概と筆力には脱帽です。鹿内氏の優柔不断さ、村上世彰代表の人となり、かつての高い志、ホリエモンの無邪気な選挙戦と純粋な宇宙への思い、三木谷社長の意外な及び腰など、主役達の人間的な側面にも濃厚に触れることが出来ます。


いくつか印象的だった言葉を引用します。
グッと来た人は是非手に取ってみて下さい。

ニッポン放送騒動で連結売上高の二年分に当たる1440億円をフジテレビからせしめ、プロ野球参入、ニッポン放送買収、総選挙出馬で名声の高まった彼らは、正気を失っていた。堀江がアクセルを踏み、宮内がブレーキを踏んだかつてのライブドアのガバナンスは完全に失われ、二人がそれぞれ別方向に向かって思い切りアクセルを踏み込んでいた。社内にもはや誰も止める者はいなかった。生き急ぐように突進する様子に、心ある幹部たちは自分たちのそう遠くない破局を予想していた。
時間外取引MSCB、そしてTOB期間中で相手が身動きできないタイミングでの失念株の奪取という敵対的買収策。技巧を凝らした戦術がせいぜい二週間程度で、しかも、二〇歳代のたった二人で編み出されていった。防衛網を突破され、落城の瀬戸際に立たされたニッポン放送をはじめ、フジサンケイグループ各社に驚天動地の衝撃を与え、日本中を釘付けにした。「ボクらはハッカーみたいなもんですよ。セキュリティホールが甘かった国防総省に忍び込んだハッカーを捕まえてみたら、子供だった。そんな感じじゃないかな」塩野はこのときの様子を、そう例えている。
村上には、あざとく立ち回り、巧みに利益を追求する、したたかなファンドマネジャーの顔がある反面、株主への還元やコーポレート・ガバナンスなどを訴えるオピニオン・リーダーとしての「正義」の顔ももっている。その二面性は、前と後ろに二つの顔を有し、光と闇、善と悪などあらゆる対立物を象徴する古代ローマの神・ヤヌスを思わせる。
ライブドア側についた学者たちの意見書は、ニッポン放送側に回った斯界の権威である学者の著作や論文から、彼らのこれまでの学説を引用しながら、彼らに反論する形をとっていた。これには碩学たちは「侮辱された」と思ったようで、ニッポン放送側に回った江頭や河本は、さらに反論する意見書を提出。意見書の提出合戦は、さながら「師弟対決」「世代間対立」の様相を帯びていた。まるで『白い巨塔』を思わせる徒弟社会が色濃く残る法学界では、弟子や門人からの批判はかなり異例のことだったようで、後々「人間関係がぎくしゃくした」と証言する学者もいる。
その席上で、奥田は「これは世代間抗争だね。応援しているからがんばってください」と堀江を激励し、日枝との仲裁も快諾。日枝に向けて電話をかけ、堀江との話し合い解決に応じるよう求めている。もっとも、奥田の一貫した堀江寄りの言動に不満を感じていた日枝は取り合わず、奥田の仲裁も実は実を結ばなかったのだが。堀江にとって奥田は財界人で唯一火中の栗を拾う労をとってくれた恩人だった。一方の奥田は、国際競争にさらされるトヨタとちがって、狭い国内市場で既得権益に胡座をかくメディア経営者に内心呆れていた、と思われる。奥田は、堀江のワンパク坊主ぶりを買い、この後ライブドア経団連入りを強力に後押しすることになる。
東京地検証券取引等監視委員会発と見られる報道内容も、実は永田の偽メール並の怪情報が多かった。クレディ・スイスを使った国際的な資金移動を見つけて、マネーロンダリングや脱税を疑ったが、これまで見てきたように、そうした形跡はほとんど見られない。捜査当局は3月10日ごろには「白」という心証を得たようだが、事件を大きく見せるために、恣意的なリークで世論操作をしてきた可能性がある。3月半ばをすぎてもクレディの関与を疑惑視した報道が続いたことに、事情聴取に全面的に協力してきたクレディ関係者は「これ以上、意図的なリーク記事が氾濫する場合は、スイス本国と日本政府との間で外交問題に発展する可能性がある」と警告している。