ケース③ 適切なビジョンをつくる -The Heart of Change(4)-

ジョン・コッターの企業変革ノート

ジョン・コッターの企業変革ノート

(1) 規制緩和によって競争の激化と機会の拡大という2つの変化に見舞われた電力企業によるビジョン策定のケース

このケースの企業は、当初は「正統的な計画立案のプロセス」から開始し、大量の財務情報と格闘するところからビジョンの策定を開始した。しかし、これはまさに「格好の睡眠薬」であり、効果的なビジョンの策定にはつながらない。そこでこの企業は、ありうべきシナリオを6〜7に絞り込み、それらを共通のシンプルな指標で比較し、さらに議論の中でそれぞれの将来像を具体化し、命を吹き込んでいった。このプロセスによって、ある選択をした場合にどの程度の変革が必要なのかが関係者の間で理解され、共有された。この時点では各選択肢が2〜3ページの簡単な報告書にまとめられた。さらに議論は進み、選択肢は絞り込まれ、選択肢の要約は1ページ程度の簡単なものになっていった。

大規模な変革を成功させる上で行動の指針となる要素は4つある。
予算: 計画の中の財務に関するもの。大型のノートが必要。
計画: 戦略をどのように実現していくか具体的な手順を定めたもの。ノート一冊分程度。
戦略: どのようにビジョンを実現するのかを示すもの。10ページ程度。
ビジョン: すべての計画や戦略が実行されたときの最終的な状態を示すもの。通常、1ページに収まり、エレベーターに乗っている間に説明できるものである。


(2) 顧客サービス向上をビジョンに掲げ、コスト削減も実現した州政府の事例

ビジョン策定で最大の問題になりうるのは、効率を優先するか、技術革新と顧客サービスを優先するか、という点である。両者は相反するようにも見えるが、解決法はある。サービスを柱に据えたビジョンを掲げるべきである。予算が限られている場合、このビジョンを達成するためには不要なコストは大幅に削減せざるを得ないのだ。逆に、「効率」「コスト削減」をビジョンに掲げた場合、人や社会に貢献したいという人々の意欲を殺いでしまうデメリットが大きい。


(3) トップが従来の「常識」をひっくり返した大胆な戦略を示し、製造プロセスが劇的に改善された航空機メーカーのケース

大胆なビジョンを実現するためには、大胆な戦略が必要であり、ここが変革プロセスの難しいところである。また、その大胆な戦略を軌道に乗せるためには、第一段階から第二段階のプロセスが着実に進行していること、そしてビジョンそのものに信頼があることが必要不可欠である。


(4) 自らの不動産購入の経験から学んだ経営幹部のケース

変革を成功させるためにはスピードが重要である。それも、変化のスピードが速い今日の社会においては、できるだけ速く動く必要がある。素早く動かなければ組織の惰性に打ち勝てない。また、時間を掛けて変革を進める場合、従業員が不安を募らせるという問題もある。スピードの問題について、本事例の経営幹部は、旧い不動産を購入した際に、半年以内に手直しをしなかった結果、5年後の売却の段階になっても未修理のままだったという個人的な「物語」を効果的に使い、部下たちにスピードの重要性を伝えていった。このような「物語」や比喩の重要性もこのケースから学ぶべき点である。