ケース② 変革推進チームをつくる -The Heart of Change(3)-

ジョン・コッターの企業変革ノート

ジョン・コッターの企業変革ノート

変革を推進する強力なチームがなければ大規模な変革は成功しない。チームに属する個人に力があっても、分裂していては変革は進まない。英雄タイプのCEOも1人では変革を主導できない。そのための十分な時間もない。経営層より下位の階層からなるタスクフォースが変革を主導しようとするのは、「ほとんど冗談のようなもの」だ。


(1) 合併後の企業で、旧企業の派閥同士が対立し、変革を主導すべき人々が分裂していたケース

経営幹部達は本音を語ることもなく、悪感情を溜め込み、対立が深化していくだけだったが、幹部会議に外部の有能なファシリテーターが起用され、会議は「本音のぶつかり合い」の場となった。その結果、幹部チームのメンバーたちは、お互いに腹を割って話し、互いに尊重し合うようになった。


(2) 様々な階層の多様な人材が集められた新チーム

強力な変革推進チームが成立するためには2つの要件がある。「適切な人材」が揃い、「結束」していなければならないということである。ここで適切な人材とは、変革のプロセスで必要となる適切なスキルと統率力があり、組織内で信頼され、個別の組織改革に対処できる人脈を持っている人物を指す。一般的な意味での優秀な人間ではないし、その時点での経営幹部である必要もない。

変革が順調に進むケースでは、以下のような手順で効果的な変革推進チームがつくられる。
①強い危機感を持つ個人がまず人材を集める。
②多様な能力を持った人材を組み合わせてチームをつくる。
③メンバーを巻き込み、ときには外して(クビにする、チームから除外する)チームをつくる。
④大規模な変革では、変革の進展につれてさらに下位の階層でチームがつくられる。

しかし、実際のケースすべてがこのパターンに当てはまるわけではなく、タスクフォースの難しさはどこでも見られる。よくある失敗の第一は、幹部が巨額の投資を承認しながら、その責任や説明を下位のタスクフォースに丸投げしてしまう場合である。このような場合、他の従業員は変革の必要性を軽視し、自分を犠牲にしてタスクフォースに協力しようとはしない。また、このような場合に、個人やタスクフォースの力不足を補うために機能横断的なタスクフォースをつくる場合があるが、このような場合、利害関係が拮抗し、セクショナリズム官僚主義によって変革が進まないケースが多い。


(3) 文字どおり戦闘で敵対していた部隊のリーダーたちが結束を固めていった新南アフリカ国防軍のケース

第二の条件、「結束」のカギとなるのが信頼である。大規模な変革を実現するためには信頼が大きな問題となる。信頼していない者同士が、全員の利益に適ったビジョンや戦略を策定することなどできない。自分自身や部下のことを最優先し、保身に走り、疑心暗鬼になるだけだ。上記ケースでは、状況がどれほど悪くても信頼を築くために使える基本的な方法が示されている。
・リーダーが率先師範によって何が必要かを示す。
・激しい行動、心を打つ行動を取る。
・行動が変わり始めたら、環境を変えて新しい活動を行なう。
・「真実の瞬間」と言うべき出来事が起きたら、それをしっかり活かす。その光景が目に浮かぶように、活き活きと出来るだけ多くの人に伝える。


(4) 瓦解しかかった会議を立て直したケース

会議の運営もまた、メンバー間の信頼と同じくらいに重要である。会議の運営のまずさは、特に新しいチームを結成したばかりの時には致命的となりうる。会議の運営を成功させるためには、焦点の絞り込みと規律が重要である。第一に、個々の会議の議題は一つに絞る。第二に、取りかかる前に十分に準備を行なう。第三に、信用できる人間を責任者にする。

なお、このケースで明らかなことの一つは、部門であれ部署であれ、そこの責任者が変革推進チームで中心的役割を果さなければならないということである。変革への決意が本物だと信頼されるためにも、幹部に梯子を外されるのではないかとの従業員の懸念を取り除くためにも、この点は重要である。上司を避け、気心の知れた者同士で変革推進チームを作り、ビジョン作りに励むようなケースがうまくいった試しはない。もし、幹部が動かない場合、その幹部は危機意識が低く、現状満足度が高く、過度な恐れや怒りを抱いているのだ。そのような場合は、まず第一段階の危機意識に焦点を絞るべきである。