ケース① 危機意識を高める -The Heart of Change(2)-

ジョン・コッターの企業変革ノート

ジョン・コッターの企業変革ノート

(1) 役員会が承認さえすれば変革は順調に進むと考えていたが、組織の他の階層から強い抵抗を受け、変革が頓挫したケース

変革を妨げる行動様式には以下の4つがある。①根拠のないプライドや傲慢さから生まれる現状満足。②恐れやパニックによる硬直、保身、逃避。③怒りによる反発、テコでも動かぬという態度。④極度に悲観的になり、常に腰が引けている状態。このケースでは、論理的な根拠を示して変革の必要性について役員を説得しようとしたが、これらの問題に感情面から効果的にアプローチすることはなかった。


(2) 怒れる顧客の姿をビデオに収め、多くの従業員に見せ、危機意識を高めることに成功したケース

ビデオは効果的に従業員の感情に訴えた。その成功要因は以下のような点だ。
・漠然としたデータではなく、きわめて具体的な視覚に訴える情報
・必要性に関する退屈なスピーチではなく、劇的な事実
・単なる幹部の意見ではなく、顧客の目から見た「本当の」問題
・感情を揺さぶる情報
・幹部が怒ったり怒鳴ったりする必要もなく、従業員の不安や怒りが増幅されることもない


(3) 一足飛びにビジョンを策定しようとし、失敗しかけたケース

世界は複雑になり、変動も激しくなっている。一人の英雄がすべてを解決できるような優れた変革ビジョンや戦略を示すことができるとは考えられない時代になっている。したがって、変革のためには、適切な人材による連帯チームを作り(第2段階)、こうしたチームを作ってから、ビジョンの策定に取り組むべきである(第3段階)。そして、適切な人材が協力して困難な仕事に取り組むようにするためには、まず危機意識を高めることが必要なのである(第1段階)。
注意しなければならないことは、単に危機を煽ればいいのではないということだ。大規模な変革の場合、恐れを過剰な不安、恐怖ではなく適度な危機意識へと転換できなければ、むしろ大きなマイナスになる。恐怖心があまりに大きいと、身動きが取れなくなったり、逃げ出したり、極端な保身に走る者が出てきかねない。


(4) 購買プロセスが著しく非効率であった企業で、各工場、各部門がバラバラに購入していた424種類すべての手袋を役員室のテーブルに積み上げた事例

このケースにおいても、他の成功事例と同様、激しく関係者の感情を揺さぶり、変革の必要性が理解された。最も特徴的であるのは、「手袋」の調査と収集において重要な役割を果したのがインターンの学生であったことだ。こうした経営幹部でない人間が変革の大きな力となったのだ。1人1人の従業員も、よくある「危機意識は理解するが自分は無力で何も出来ない」という考え方は見直した方がいい。


(5) 本社ビルに掲げられていた歴代CEOの油彩画を現CEO自らすべて取っ払い、代わりに顧客店舗の写真を飾り、劇的に顧客重視の意識を浸透させるきっかけをつくったケース

インターン学生を活用した(4)のケースと同様、このケースは大規模な変革の準備に必ずしも大きな資金や長期間が必要となるわけではなく、手っ取り早く、安上がりに出来ることを教えてくれる。