ロールモデルの役割 -Questions of Character(3)-

Questions of Character: Illuminating the Heart of Leadership Through Literature

Questions of Character: Illuminating the Heart of Leadership Through Literature

  • 作者: Joseph L. Badaracco Jr.
  • 出版社/メーカー: Harvard Business Review Press
  • 発売日: 2006/04/01
  • メディア: ハードカバー
  • クリック: 1回
  • この商品を含むブログを見る
Chapter 3: Are My Role Models Unsetting?


ロールモデルはリーダーを触発し、導く存在でもあるが、同時に彼らは混乱をもたらし、リーダーを欺くこともある。小説Blessed Assuranceで語られるジェリーとそのロールモデル、ヴェスタの物語は、ロールモデルの果す複雑な役割を明らかにしてくれる。

この物語の中ではロールモデルに関する2つの大きなテーマが示される。第一に、ロールモデルに関する伝統的な見方は正しいということである。リーダーは、その振る舞いから学ぶことが出来、その特質を真似ることが出来、その価値観を共有できるようなロールモデルを必要とするのだ。しかし、第二に、優れたロールモデルはさらに多くの影響を与える。彼らは、リーダーを不安にさせ、永久に続くような緊張をもたらし、駆り立て、葛藤させる。彼らは、このような影響を間接的に、微妙に、さらには無意識に与えるのだ。


Questions of Character 1: Does My Role Model Meet Deep Needs?

ジェリーにとってヴェスタは伝統的な意味でのロールモデルではなかった。被差別者で貧しくありながら、子供を育て上げ、シンプルに、そして力強く生きてきたヴェスタの生き方をジェリーは尊敬しつつも、後の彼自身の生き方はヴェスタのものとは異なるもっと野心的なものとなった。にも関わらず、ジェリーが40年の後になっても思い出さずにはいられないほどの影響をヴェスタから受けたのはなぜだったのか。それは、当時19歳のジェリーが心の奥深くで必要としていたものをヴェスタが彼に与えていたからだ。彼は貧しく、炭坑で働いていた両親が病気になってから常に両親の世話をし続け、両親からの愛情あふれる世話を受けるという経験が不足していた。そのうえ、高校卒業後は貧者を食い物にしかねないビジネスモデルを持つ保険会社で働き、心も渇ききっていた。そんな彼に、クライアントの1人だったヴェスタが大きなあたたかさと優しさを与えたのだ。ジェリーがヴェスタの世話をしているように見えて、実際はジェリー自身がヴェスタとの関係を必要としていたのだ。心理的に、そして感情的に、ヴェスタはジェリーを救済したと言えるのかも知れない。そこから得たものが非常に強かったがために、彼自身十分以上に献身的であったにも関わらず、ジェリーはヴェスタに対して恩返しが出来ていないという意識を常に持ち続けたのである。


Questions of Character 2: What Does My Role Model Elicit from Me?

ヴェスタはジェリーに、忍耐、強さ、あたたかさや親切心など、学ぶべき模範を示しただけでなく、彼自身の中から重要なことを引き出した。ヴェスタとの関係の中から、ジェリーは自分自身について多くのことを学び、その学んだことが彼の人生を変えた。


Questions of Character 3: Does a Role Model Offer Gifts of Discomfort?

ジェリーに対するヴェスタの影響は、第一に彼が彼女のことを思い出すたびに感じる罪の意識と痛みによるものである。その結果、彼は仕事や生活において、このような思いを二度としなくてよいように選択を行なう。そのおかげで、例えば彼は、成功した中産階級の快適な暮らしの中ではつい鋭敏な意識を失いがちな差別の問題に対して麻痺することなく生きていくことができた。不快感、緊張、さらには罪悪感や罪の意識は、ある人の人生を形作るような個人の影響力の指標になりうるのである。


Questions of Character 4: Do I have Down-to-Earth Role Models?

我々は歴史上の偉人から多くのことを学ぶように教育されるものであるが、残念ながら彼らはもはや台座の上に生きているのであって、現実の世界には生きていない。彼らの偉業は我々を鼓舞するには最適だが、その生き方が我々の人生に真の影響を与えるためには抽象的ないし一般的過ぎる。この点について孔子が全く違うアプローチを示している。彼はまず、左右を眺めてみること、つまり、自分自身の周囲にいる人から学ぼうとすることを勧めている。さらに、周囲の人の持つ学ぶべき美点を探そうとするのではなく、日常生活の中から自分自身についての理解、知識を見出すように助言しているのだ。このような意味で、ジェリーは、ヴェスタと保険会社の上司であったサムという二人の現実的なロールモデルを得ることが出来た。サムもまた、ジェリーに不快で長く続く感情的な影響を残し、葛藤させ続けた人物である。


Questions of Character 5: Do I Have “Will Fix” Role Models?

リーダーは、人生や仕事に対して「必ずうまく行く」というアプローチを持ったロールモデルを必要とする。組織を率いるという仕事は終わりのない問題や困難の流れに立ち向かうことであるし、リーダーも人生のもたらす痛みや失望と無縁ではないからだ。優れたロールモデルのもたらす自信に満ちたプラグマティズムは、リーダーに耐える力を与え、必死に努力させ、困難を解決する方法を見出させる。ジェリーにとっては、彼が心にはっきりと描き続けていた、粉々に壊れた陶器を見事に修復するヴェスタの姿がこのようなロールモデルの役割を果した。