新古典派の「魂」 -ノーベル賞経済学者に学ぶ現代経済思想(2)-

ノーベル賞経済学者に学ぶ現代経済思想

ノーベル賞経済学者に学ぶ現代経済思想

第1部 合理主義者と個人の選択


第2章 大きな政府の直接的な危険性


筆者によれば、スティグラーが新古典派経済学の「分析的知能」だとしたら、フリードリヒ・フォン・ハイエクはその「魂」なのだそうだ。また、自由市場における政府の干渉に否定的な人にとって、ハイエクは「神様のような存在」でもあるそうだ。彼は、1974年、グンナー・ミュルダールとともにノーベル経済学賞を受賞した。受賞理由は、「経済、社会、制度的現象の相互依存性に関する研究」とのこと。彼は、強大な力を持つ政府の危険性について警鐘をならしたが、その原体験は、彼自身が第二次大戦前のオーストリアで育ったことにある。『隷従の道』の中で彼は、政府が経済に過度に干渉したことがドイツでのナチズムの台頭につながったと論じている。


ハイエク自由主義論者であり、個人主義とレッセ・フェールを尊重する。経済に対する政府の干渉は必要最小限にすべきであり、社会が達成すべき目的を決定する際は、個人の嗜好や選好を重要視すべきだとする。自由な社会における、人々の合理的で最適化された意思決定によって、厚生を極大化する生産へと資源が振り向けられ、経済効率性が高まる。そして、選択の自由は自然に経済成長をもたらす。


問題となるのは、成長が不確実であるために生活水準の向上が不規則で不平等になりがちな点である。生活水準の格差は社会に不満感や対立を生み出す。そして、不満を抱く利益集団は、集団的意思決定がすべての人々の生活水準を向上させると信じるようになるが、そこに全体主義の萌芽があるとハイエクは警告した。


しかし、ハイエクによれば、強力な政府を支持する人々は、自由市場の根本的な目的、機能を見落としている。自由で競争的な市場における自発的な反応に匹敵するほど効率的な計画を策定できる人間などいないのだ。また、強力な中央政府が一つの国家目標へ向かって進むときには、経済効率性への打撃よりはるかに深刻なダメージ=個人の自由の侵害がもたらされる。さらに、強力な中央政府の力によって、資源がもっと安全かつ公平に分配されることを望む人たちは、利益集団の影響力の下で行なわれる意図的な政策決定によって分配の不平等が生まれることを見逃している。これに対して、自由市場による分配は、個人の生産能力もしくは運に基づくものである。