感情のトリガーに対処するには -Emotions Revealed(3)-

Emotions Revealed: Recognizing Faces and Feelings to Improve Communication and Emotional Life

Emotions Revealed: Recognizing Faces and Feelings to Improve Communication and Emotional Life

Chapter3: Changing What We Become Emotional About


autoappraisersの生み出す感情に対して、私たちの知識や意識の働きは十分な対抗力を持っていない。感情のトリガーが、universal themesであればその傾向はより強く、逆に、後天的に習得されたvariationsの場合は知識や意識がより状況をコントロールすることができるかもしれない。


また、感情は、私たちが知識や情報にアクセスすることを妨げる場合もある。私たちが不適切な感情に囚われてしまっている場合、私たちは今目の前で起こっていることを自分が感じていることに整合的に理解しようとし、合致しない知識や情報を無視する。このような状態を、refractory stateと呼ぶ。refractory stateの続く期間がほんの数秒であれば集中力を高める上で有用であるといえるが、それが数分、数時間といった長時間にわたると、世界や私たち自身を理解する上でバイアスが生じてしまう。refractory periodにおいては、事実が感情を生み出すのではなく、感情が自分を正当化する事実を探そうとするのである。refractory periodが長く続く場合、そこにはたくさんの理由がある。睡眠不足、他の理由によるプレッシャーやストレスを目の前の事象に転嫁してしまうこと、特定の感情に支配されやすい性格であること、これまで何度も経験してきた他の文脈での感情的な筋書きを持ち込んでしまうこと、等である。


しかし、感情のまったくない生活は、退屈で、うまみもおもしろくなく、そしておそらく危険である。したがって、多くの人は、感情を完全にシャットダウンするよりも、特定のトリガーに対する感情的な反応をもたらすスイッチのみを、選択的に切ることができるようになりたいと願うものである。


universal themesに基づくトリガーの場合、その影響力を弱めることはできるだろうが、完全に取り除くのは不可能である。では、後天的に習得したvariationsの場合どうだろうか。最先端を行く脳と感情の研究者Joseph LeDouxによる研究成果をベースに、以下のようなことが言える(LeDouxの調査対象自体は「恐怖」の感情のみ)。まず、脳に蓄積されたデータベースからの影響によって生じた「感情」と感情的な「行動」を、一時的にせよ意識的に切り離すことも学ぶことが可能である。また、データベースをなくすことはできないが、「トリガー」をそのまま「感情」に結びつけないよう、意識的に制御することも学ぶことができる。本章の残りの部分では、トリガーをいかに弱めるかに焦点を置いて論じる。次章では感情を引き起こす事象と情動反応との繋がりをいかに弱めることができるかについて説明する。


トリガーの威力を弱め、refractory periodを短くするためには、以下のような6つの要因がある。

①第一に、後天的に習得したトリガー(variations)が、先天的なトリガー(themes)に似通ったものであればあるほど、その影響力を減じるのは困難である。

②第二に、現在のトリガーとなっている状況が、最初にトリガーとなりvariationsを生み出すこととなったオリジナルのイベントに類似していればいるほど、その力を弱めることは困難である。

③第三に、問題となるトリガーが習得された時期が、その人の人生の中で早い段階であればあるほど、その影響力を弱めることは困難になる。

④第四に、トリガーが習得された最初の経験において、感情に受けたインパクトが大きければ大きいほど、その力を弱めることは難しい。

⑤第五に、トリガーを生み出した経験が、短期間に繰り返し生じた、あるいは行なわれたものである場合、その影響力を弱めることは難しくなる。

⑥最後に、感情に関する個人のスタイルも影響する。具体的には、情動反応のスピード、反応の強さ、回復にかかる時間、等である。例えば、反応が速く、かつ強い個人ほど、冷静になるのに時間がかかる。


これらを踏まえた上で、トリガーの影響力を弱めるために取るべき最初のステップは、自分自身が何かを感じていることを意識し、身体の中で起きている感覚を知覚し、さらに、自分の感情が他人に及ぼしている影響を理解することである。その次にすべきことは、それらのエピソードの記録をできるだけ詳しく付けていくことである。その上で、冷静に、状況や自分自身の反応について、理解し、熟考していくことが重要である。特に、トリガーとなっている要素について、違う解釈が可能であるということについて学んでいく必要がある。なお、セラピー、behavior therapy、meditation training等によってもトリガーの影響力を弱めることは可能である。


最後に、気分と情動の違いや関係についても説明しておくべきだろう。

最も明らかな相違は、情動は気分に比べれば非常に短期間しか持続しないという点である。気分は長期間継続するが、その間特定の情動を喚起しやすい。例えば、苛立っているとき、人は怒りの感情を喚起する機会を探そうとする。それを許すように物事を解釈しようとする。このようなときに怒った場合、その怒りの感情はそうでないときよりも長い時間持続する。また、このような場合、私たちの環境に対する解釈や反応にバイアスがかかることによって、柔軟性が失われてしまう。

加えて、感情が湧き起こり、それを自覚したとき、通常その原因を指摘することが可能であるのに対し、ある気分に陥ったときにもその原因を理解することはほとんどないという点も異なっている。