ピグマリオン・マネジメント

ピグマリオン・マネジメント ("Pygmalion Management")
J. スターリング・リビングストン (J. Sterling Livingston)
DHBR Oct 1982 (HBR July-Aug 1969)


「おわかりでしょう。習ったり、覚えたりできることは別として、本当のところ、レディと花売り娘との違いは、どう振る舞うかではなく、どう扱われるかにあるんです。ヒギンズ先生にとっては、あたしはいつまで経っても花売り娘なんです。先生はいつだってあたしを花売り娘として扱っていらっしゃるし、これからもずっとそのおつもりなんです。しかし、あなたの前では、あたしはレディでいられるんです。なぜなら、いつもレディとして扱ってくださるし、これからもそうでしょうから」
(イライザ@『ピグマリオン』(マイ・フェア・レディ))


著者の10数年に渡る実証研究の結果、以下のような事実が明らかになっている。
・マネジャーが部下に何を期待し、またどのように扱うかによって、部下の業績と将来の昇進がほとんど決まる。
・優れたマネジャーの特徴は、「高い業績を達成できる」という期待感を部下に抱かせる能力である。
・無能なマネジャーはこのような期待を植え付けることが出来ず、部下の生産性も向上しない。
・部下は部下で、自分に期待されていると感じられることしかやらない傾向が強い。


Cf.
「予測の自己実現」byアルバート・モル(1940年頃?)
“self-fulfilling prophecy” byロバート・ローゼンタール
プラシーボ効果


「成功の見込みなし」等、否定的な期待がネガティブな自己実現の源泉となる場合もある。残念なことに、部下に対する低い期待度を内心に押し殺していても、そのような低い期待は、態度等のノンバーバルなメッセージを通して無意識に伝わってしまう。この場合、沈黙や冷たい態度は否定的な感情しか伝えないのだ。そして、さらに困ったことに、マネジャーが、自分がどれほど否定的な感情を部下に伝えているのかを認識することは非常に困難なのである。逆に、肯定的な感情、期待ははっきりと伝わらないことが多い(→だから、マネジャーはよほど意識的に、部下に正当な期待を伝える努力をしなければならない、ということか)。


また、部下が、上司の期待が現実的で、実現可能なものだと感じられなければ、期待は高いパフォーマンスのインセンティブにはなりえない。実現不可能な目標に向かって頑張れと言われても、最終的には努力を放棄し、本来期待できるレベルよりも低いパフォーマンスしか達成できない。


興味深いことに、部下への高い期待を持ち、彼らの力を引き出すことのできる優秀なマネジャーの力の源泉は、部下を選抜し、訓練し、動機づけることのできる自分自身の能力への自信にある。言い換えれば、部下の能力に対する信頼とも言える。


「鉄は熱いうちに打て」という原則もはたらく。教育の現場では、教師の期待によって知的な成長が促される程度は、年長児よりも年少児の方が大きい。高学年になるほど、自分自身に対する期待や教師からの期待も硬化し始め、他社の影響を受けにくくなる。企業においても、新入社員ほど期待の及ぼす影響は大きい。


若者は、最初のマネジャーから、その生涯において最も大きな影響を受けやすい。したがって、このマネジャーが、若者が今後十二分に発揮すべきスキルを教育できない、あるいはそのような教育に熱心ではない場合、若者の自己イメージは損なわれ、ひいては自分の仕事や雇用主、昇進に後ろ向きな姿勢を形成してしまう。また、若者は、この時期に上司から受けた影響を、自分自身の部下に対しても繰り返していく。こうして、ポジティブなスパイラルとネガティブなスパイラルが生み出される。


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