企業変革における8つの過ち -企業変革力(1)-

企業変革力

企業変革力

第一章 企業変革はなぜ失敗するのか


企業変革における8つの過ち


(1) 従業員の現状満足の度合いと影響力を過小評価したまま変革に突入する。

言い換えれば、大規模な変革をどの程度実現できるかという点について過大評価している。そして、その変革に向けて、現状に満足して危機感のない状態から人々を引き出すことが、いかに困難かを過小評価する。そして、現状満足の状態から引きずり出されてしまった人たちの抵抗を受け、身動きが取れなくなる。最悪のケースでは、「危機感」ではなく、「不安感」をいたずらに煽り、人々をさらにたこつぼの奥深くに追いやり、抵抗感を強めてしまう。


(2) 変革を主導する強力な連帯チームを築くことを怠る。

企業変革を成功させるためには、トップマネジメントや、ライン部門のリーダーを含むメンバーからなる、業績向上に強くコミットした連帯チームの編成が不可欠である。伝統的ないし短期的な自己満足を求め、行動の変容を決して受け入れようとしない勢力との闘いに勝利するためには、役職に伴うパワー、情報、専門能力、名声、幅広い人間関係、リーダーシップ等、メンバーの多様なリソースを総動員する必要がある。


(3) ビジョンの重要性を過小評価する。

成功する企業変革の諸条件の中で、有意義なビジョンの存在こそが最も重要である。ビジョンは存在しなければ、変革の試みも、従業員による変革の努力も、時間もエネルギーも、無駄に浪費されるおそれがある。また、そもそも変革を促すエネルギーを生み出すことも出来ない。ビジョン不在の計画やプログラムは無意味である。また、あまりに複雑な、あるいはあまりに不明瞭なビジョンも役には立たない。原則は、「変革を推進するビジョンを5分以内で説明しきれない場合、あるいは従業員がそれを理解し咀嚼する際に混乱を示した場合は、問題は必ずそこにある」。


(4) 従業員にビジョンを周知徹底しない。

たとえ従業員が現状に満足していなくとも、変革によって得られる利益が魅力的で、かつそれが実現可能だと確信できていない限り、彼らが自己犠牲を払って変革に協力することはあり得ない。この点において、トップからのコミュニケーションが極めて重要な役割を果たす。ビジョンを伝えるコミュニケーションが昨日しないケースには3つの代表的なパターンがある。①数回のミーティング、数通のメモを出すことにとどまる場合。②トップがいくつもの従業員グループに対して多大な時間をかけて変革について説明しているが、トップを支えるマネジャーたちが沈黙を保っているケース。③②以上の努力が費やされるが、一部の有力なマネジャーが、そのビジョンに相反する行動をとり続けることによって、ビジョンのcredibilityが低下の一途を辿っているケース。


(5) 新しいビジョンに立ちはだかる障害の発生を許してしまう。

新しいビジョンが歓迎されている場合でも、従業員の行く手に巨大な障害が存在し、そのために彼らが意気消沈している場合には、変革はまず成功しない。リーダーたちは、率先してこれらの障害の打破に取り組む必要がある。


(6) 短期的な成果をあげることを怠る。

本格的で複雑な企業変革を推進するためには長期間を要する。そのため、短期的な、区切りごとの目標を設定し、その目標達成を確認し、目標達成に参画した人に褒賞、昇進、昇給を与えてその業績を称えるといった工夫をしなければ変革の勢いを削いでしまう。人々は、変革が予定通りの成果を収めているという確固たる証拠を確認できなければ、いつまでも続く長い更新には耐えられないのである。


(7) 拙速に勝利を宣言する。

短期的な勝利を祝うことと、最終的な変革の成功を宣言することは明確に区別する必要がある。真に変革が企業文化に根づくためには、通常3年から10年の期間が必要であり、それまでは新しい方法は脆弱であり、後戻りを起こす可能性がある。安易な勝利宣言は、抵抗勢力による改革潰しを招きやすいのである。


(8) 変革を企業文化に定着させることを怠る。

新しい方法を企業文化に定着させるためには二つの要件がある。第一は、新しい行動がいかに業績向上に貢献しているのかを従業員に説明する努力を継続すること。第二は、経営陣の後継者が新しい方法をしっかり自分のものにできるまで十分な時間を費やす、もしくは、新しいやり方を十分に理解し、コミットした後継者を選ぶこと。