株価の決定要因

企業価値評価 第4版 【上】

企業価値評価 第4版 【上】

第I部 原理編


第4章 株式市場は何で動くか


本章では、DCF法による企業価値の評価及び向上の論理的な前提となる以下のような仮説について、様々な定量的分析に基づいて論証が行なわれている。


○「株式市場は、利益率が高く、かつ(資本コストを上回るリターンを上げたうえで)成長率の高い企業を評価する。」(p.80)
・「株価」の変動要因と株主への「収益」(TRS等)の変動要因の相違に注意。

株価の水準は、企業の長期的パフォーマンスと成長性の絶対水準、つまり、売り上げと利益の成長率の予測とROIC(投下資産利益率:Return on Invested Capital)によって決定される。一方、TRSは、企業の異時点間の市場価値の差である。そして、この差は、ROICと成長率に対する投資家の期待が長期的に変化するために生じる。(p.81)

○「株式市場は、短期的なエコノミクスではなく、長期的なエコノミクスをより重視する。EPS(1株当たり利益:Earnings Per Share)がその目標を下回ると株価に大きな打撃を与える、と信じ込んでいる経営者がいる。しかし実際には株価は、短期のEPSではなく、長期的なリターンで決まっている。」(p.80)

EPS目標を下回ること自体が株価を下落させるわけではない。しかし多くの場合、投資家は短期目標の達成度から、企業の長期的パフォーマンスを予測するしかない。このとき、直近のEPS目標が未達であると、投資家はこれを長期的パフォーマンス悪化の兆しととらえ、経営者への信頼を失い、株価下落につながるのである。もし経営者が市場に対して、短期実績の悪化は長期的な収益性には影響を及ぼさない、と納得感のある説明をすれば株価の下落はないだろう。(p.87)

○「株式市場は、会計情報から真のエコノミクスをよく見通している。よって経営者は、ストックオプションのれん代に関する会計基準の変更について、過度に心配する必要はない。」(p.80)
cf. のれん代の償却、在庫の評価法、会計の不正、会計基準の相違、ストックオプションの費用計上


○「個人投資家が企業のエコノミクスに基づいて投資していなくとも、株価はエコノミクスを正しく反映する。投資家心理が市場を動かすという「行動ファイナンス」の考え方のある部分には賛同するが、投資家心理の影響は長期に及ぶわけではない。」(p.80)
cf. ノイズトレーダー・リスク、長期的反動、短期的モメンタム、カーブ・アウト及び双子株ストラクチャーにおけるミスプライシング


○「市場全体として株価がエコノミクスから乖離する状態は、長くは続かない。過去40年間を振り返っても、数年間で修正されている。」(p.80)


そして、結論は、

我々の研究が示すように、株価は多くの場合、市場が考える本来価値を最大限反映していると考えてよいだろう。したがって、経営者は、DCFとエコノミック・プロフィットに基づいて経営判断をなすべきである。また、賢明な経営者が、市場が非合理的な状態にあることに気づけば、本来価値と株価の乖離をむしろ自社に有利に利用できる。(p.80)

cf.「利用」の例
・株価が本来価値よりも高いときに、株式を追加発行する。
・株価が本来価値よりも低いときに、自社株買いを実施する。
・株価が本来価値よりも高いときには、買収の対価を現金ではなく、株式で支払う。