価値創造の本質

企業価値評価 第4版 【上】

企業価値評価 第4版 【上】

第I部 原理編


第3章 価値創造の本質


企業価値の創造と評価に関する考え方の要点(p.61)
①製品・サービス市場では、投下資産が資本の機会費用を上回るリターンを生み出すことによって、価値が創造される。
②資本コストを上回るリターンを生む投資をすればするほど、より高い価値を創造できる。
③将来キャッシュフロー、またはエコノミック・プロフィットの現在価値の総和を最大化する戦略を選択しなければならない。
④株式市場の株価は、市場が当該企業の将来の業績にどの程度期待しているのかによって決まる。
⑤ひとたび株価がつくと、株主の得るリターンは、企業の実際の業績そのものよりも、将来の業績への期待とその達成度との格差に左右される。


○③の補足
・エコノミック・プロフィットとDCF法は同じ結果を示す。ただし、適した用途が異なる。
 Cf. エコノミック・プロフィット=投下資産×(ROIC−WACC)
・「将来のエコノミック・プロフィットを同じ資本コストで割り引き、足し合わせたものに投下資産額を加えれば、DCF法と同じ結果になる。」(p.57)
 Cf. 企業価値=投下資産+将来のエコノミック・プロフィットの現在価値の総和
・ただし、複数の期にわたって実行する戦略が企業価値に与える影響を評価するためにはDCF法が適している。逆に、DCF法は各年の業績を把握するのには適しておらず、エコノミック・プロフィットがこれに適している。


○⑤の補足
・投資家は、企業の株式への投資において、将来の業績予測(期待)に基づいた企業価値と現在の企業価値の格差=プレミアムを支払う。
・期待どおりの業績であれば収益は機会費用に等しく、期待以上(以下)であれば機会費用を超える(下回る)収益を得る。

製品・サービス市場で多くの価値を生み出しても、その業績が投資家の期待に達しなければ投資家は失望する。経営者としてのフレッドの使命は、企業の本来価値を最大化するだけでなく、資本市場の期待をコントロールすることでもある。(p.60)

→例えば、投資を得るために期待を高め過ぎ、期待に応えることができなければ市場の信頼を失う。逆に、「市場の期待が小さく企業が擁する事業機会に照らしてその株価が低いと、敵対的買収の危機にさらされることになる」(p.60)。


○DCF法の特質

投資家は、投資対象の利益だけをみて、家や車を購入することはできない。その事業が生み出すキャッシュフローをみなければ、消費や投資はできないのである。DCF法を用いると、利益を生み出すために必要な設備投資やその他の現金支出を織り込んだうえで、価値を評価できる。DCF法は企業では長い間、投資評価に用いられてきた。このDCF法を用いると、個々のプロジェクトの価値の総和である事業全体の価値も算定できる。(p.64)

・ただし、キャッシュフローを現在価値に割り引いて足し合わせれば企業価値評価は終わり、ではなく、他にも考えるべきことは多い。例えば、過去の実績や他者との比較との関係キャッシュフローの予測は適切なのかを考える必要があり、短期のキャッシュフローが恣意的に操作可能であることも考慮に入れなければならない。
ROIC、WACC、利益成長率の関係
 →利益成長率は高ければよい、というものではない。ROIがWACCを上回っている場合にのみ、利益成長率の向上が企業価値の増大をもたらす。逆の場合は企業の価値を破壊する。
 →また、ROICが十分に高い水準にある場合、さらにROICを高めるよりも、利益成長率を高めた方が企業価値がより向上する。


○バリュー・ドライバー式

バリュー・ドライバー式は、コーポレート・ファイナンスの真髄を表している。企業価値は、企業のエコノミクスの根底をなす、成長率、ROIC、および資本コストと深く結びついていることを、この式は顕著に示している。・・・コーポレート・ファイナンスの真髄を表すにもかかわらず、なぜ、実務ではこの算定式を使わないのだろうか。もちろん、この式を使う場合もないわけではない。しかし、ROICや成長率を将来にわたり一定と仮定する点など、実際の仕様には課題も多い。バリュー・ドライバーが今後変化していく可能性がある企業では、将来予測の際に、それを織り込めるモデルが必要になる。このために実際の企業価値評価にはこの算定式はあまり用いないが、何が企業価値のドライバーであるかに着目するのには非常に有用である(p.72)。

利益マルチプル
・利益マルチプル=企業価値/当期利益
・アナリストレポートや投資銀行の資料ではDCF法よりも利益マルチプル法が多用される。その理由は、例えば、類似企業のマルチプルとの比較によって企業価値評価の妥当性を判断できること、DCF法で用いるROICや成長率、フリーキャッシュフローの将来予測が難しい等による。