『フラット化する世界[上・下]』

ドラッカースクールの同窓生MLに投稿した記事です。
折角なのでこちらにも載せておきます。
各章サマリーは「これからの日本と世界」カテゴリーの中にあります。


フラット化する世界(上)

フラット化する世界(上)

フラット化する世界(下)


Applied Operation Managementのグループ・プロジェクトで教授から読むように指示されたのが最初の出会いで(その時は別のメンバーが読みました)、「読みたいな〜」という気持ちと、あの分厚さにひるむ気持ちで3ヶ月くらい手を出さないでいましたが、気づいたら日本語版が出版されていました。しかもしっかり最新の増補版の方が邦訳されています。驚きです。日本のこの良書の翻訳スピードは世界的にもかなりレベルが高いのではないでしょうか(でもそのせいで英語レベルが上がらないのだという話もあります)。


というわけで、コスタメサの三省堂で早速日本語版を手に入れてみました。


結論から言えば、非常に素晴しい、「目からウロコ」の類の本だと思います。メインはインド、中国ではありますが、世界がフラット化しつつある現状を克明に描いており、かつ、多分に直観的ではありますが、フラット化の背景・動因と現状を体系的にとらえようという試みも提示されています。何より、筆者が世界中を回って集めてきた事例の面白さ、きらびやかさは他に例がありません。おそらく、誰もが初めて知るような事実にたくさん触れることができるのではないでしょうか。そして、「たしかに世界はフラット化している!」と感じざるを得ないことでしょう。


しかし、本書の優れたところは、フラット化の現象だけでなく、フラット化する世界の外に取り残され、苛立っている人々や、フラット化によって生まれる新たな問題もまた克明に描き出している点です。そこには、フリードマン自身の母国アメリカの危機的現状や政策提言も数多く含まれます。それらアメリカが抱える問題の多くは、日本にも通じる部分が非常に多く、身につまされる話ばかりです。


したがって、本書を読んで総体的に考えさせれることは、①たしかに世界のフラット化は進んでいる、しかも、すさまじいスピードで進んでいるということ。②そして、それによって日本も経済的な競争優位を大きく失いつつあるということ。③さらに、より広い世界ではフラット化に取り残され、苛立ち、あるいは苦しんでいる人々も圧倒的多数存在しているということ。④加えて、フラット化はエネルギー問題や環境問題を加速させているということ、の4点であると思います。これらはいずれも21世紀に生き、次代を創り出していかなければならない私たち全員が真剣に考えなければならないことだと思えてなりません。


折しも、つい先日第4次中東戦争に繋がりかねない戦争状態が勃発してしまいましたが、フラット化はこれとも無縁ではありません。アルカイダはもちろん、ヒズボラハマスもフラット化の恩恵を受けて力を蓄える一方、その構成員や消極的支持層の多くはフラット化の及ばない世界に閉じこめられ、苛立ちと憎しみをひたすら募らせています。日本のご近所で言えば、北朝鮮も彼らと近い状況にあります。中東情勢も北朝鮮の動向も、日本に相当に大きな影響を与えずにはおかないでしょう。


その背景の一因である世界のフラット化、そして、これらの日本のあり方、を考える上で、『フラット化する世界』は間違いなく非常によい題材を与えてくれるものだと思います。相当分厚いですが、オススメです。