なぜ国家は衰亡するのか

なぜ国家は衰亡するのか (PHP新書)

なぜ国家は衰亡するのか (PHP新書)


ある意味難しい本だ。


第一に、「新書」という形態の限界のためだと思われるが、ほとんど全編にわたって論証不十分な記述ばかりで、「中西教授は知識は豊富だが論理的に突き詰めていくタイプではなく、知識と知識のつながりの中で思いつきの理論を構築していくタイプの人なのではないか」と、若干失望に似た感情を抱いてしまう。そうすると、当然読書を続けるのは苦痛になる。特に、ちょうどローマ人の物語にはまり、読み進めているところなので、ローマ関連の記述の薄さや浅さに触れると余計にがっかりしてしまう。


しかし、最後まで読むことでこの本の真価が分かった。
本書には、一貫してひとつのメッセージが込められているのだ。


国家が危機を迎え、改革を必要としているときには、必ず歴史や文明の深みに立ち返り、その国の本質について考えなければならない。その本質に基づいたものでなければ、真に価値のある変革を成し遂げることは出来ず、いずれ同じ過ちを繰り返すだけである


このような観点から、


①西ローマと東ローマがいかに異なる末路を辿ったか。
②(西)ローマの滅亡に向かう過程で起きた事象と、19世紀末以降の大英帝国の凋落の過程で起きた事象がいかに類似しているか。そして、現代の日本でも同様の事象が起きているということ。
③中国とアメリカの文明の本質。
④江戸時代に繰り返された衰退と改革のプロセスと、現代へのimplication。
大正デモクラシー期以降の日本と現代の日本の類似性と、両者が同じ問題を抱えていること。


等が語られている。


一つ一つの記述を取り上げれば、「論証」というより「連想」の域を出ない印象を拭えないが、全体を通してみれば結構な説得力がある。著者の他の、新書でない作品を読んでみたい気になった。特に、イギリスのサッチャーによる改革、アメリカのレーガンによる改革においては、単に危機感に基づいてシステムの変革(「大きな政府」から「小さな政府」へ)をごり押ししたのではなく、ポピュリズムではなく、1人1人が自分の行動に責任を負い、「自由」というもののあり方を考え直さなければならないのだという哲学的な領域に踏み込んで議論がなされていったという事実は極めて示唆に富むものであり、次にこの点について詳しく論じられているという『国まさに滅びんとす -英国史にみる日本の未来』を読んでみたい。