規範の柔軟性 -Questions of Character(2)-

Questions of Character: Illuminating the Heart of Leadership Through Literature

Questions of Character: Illuminating the Heart of Leadership Through Literature

  • 作者: Joseph L. Badaracco Jr.
  • 出版社/メーカー: Harvard Business Review Press
  • 発売日: 2006/04/01
  • メディア: ハードカバー
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Chapter 2: How Flexible Is My Moral Code?


リーダーには道徳的規範を持つことが求められる。リーダーの持つ基本的価値観が、不確実な状況、プレッシャーの強い状況においても、彼らをして方向を見失わせないことを人々は期待するのである。しかし、リーダー自身にとっては、規範を「コンパス」のようないつでも善悪を示してくれる力強いガイドであると考えることは誤りであり、危険である。まず、規範は時とともに成長、成熟を必要とするものである。また、リーダーが置かれている状況そのものと同様に、複雑かつ多様で繊細なものでなければならない。これらの点については、Things Fall Apartの主人公Okonkwoを反面教師として多くのことを学ぶことができる。


Questions of Character 1: How Deep Are the Emotional Roots of My Moral Code?

リーダーの価値観や信条は、自らの人格と所属するコミュニティの性質に深い感情的な根源をもつものでなければならない。Okonkwoは「父のようになりたくない」という強い思いに駆られ、少なくともある時期まではIbo族の価値観を忠実に体現して生きていた。加えて、リーダーが抱くコミュニティの価値観は、倫理的な吟味に耐えるものでなければならない。この点ではIbo族の価値観は完璧なものではなかった。


Questions of Character 2: What Do My Failures Tell Me?

リーダーの抱く価値観、信条の真価は、成功を収めたとき以上に、失敗の中で明らかになるものである。また、失敗に対するリーダーの反応もまた、失敗そのものと同じくらいこれを明らかにするものである。安息日に犯したOkonkwoの失敗から明らかになるのは、彼は自らの従っていた個人とコミュニティの信条を深く考えた上で従うべきものと判断していたのではなく、単に罰則を伴う機械的なルールのように捉えていたという事実だった。また彼は、自らの失敗とそれに対する反応を人々がどう感じるかという点にもまったく顧慮することはないのだった。したがって、彼はこの失敗から何も学ぶことがなかった。彼の失敗から、彼の持つ規範が非常に狭小なものであったということも明らかである。彼はひたすら強さを崇め、脆弱さを嫌悪していただけなのだ。

優れたリーダーの場合は、失敗やそれに対する自分の反応に向き合うだけでなく、なぜ失敗し、なぜそのように反応したのかについての理由を考え、他人を責めるよりも自分自身をみつめるものである。もしOkonkwoがそのような内省を行なっていたならば、自分の持つ規範は幼い頃の感情によって深く刻まれたものであり、若い頃の成功をもたらしてくれたものではあるが、リーダーとしては非常に狭小なものであり、危険であることに気づくことが出来ただろう。彼の場合のように、リーダーは、時に自分の成功をもたらしてくれたまさにその性質や価値観が深刻な問題となりうることを知っておかなければならない。


Questions of Character 3: How Have I Handled Ethical Surprises?

リーダーが真に強い規範を有しているか否かを知るために最も優れた方法は、慣れ親しんだ基準や考え方の通用しないような事態にどのように対処したかを観察、分析することである。その際の評価の基準は3つある。

(1) Clarity
第一に、リーダーは基本的な道徳的義務を明確に理解していなければならない。Ikemefuna少年を殺したケースにおけるOkonkwoについては、この点がクリアされていたかどうかは不明確である。

(2) Motive
第二に、なぜリーダーが特定の行動を取ったのか、その動機も重要なポイントである。上記ケースにおけるOkonkwoは、残念ながら「弱い奴だと他人から思われたくない」という自分自身の信念と衝動に駆られていただけで、そこには道徳的要素は何もない。

(3) Dominance
第三の基準は、最終的に何がリーダーの選択や行動を決めるか、さらに、彼らの規範が他の考慮よりも強い力を持っているか、を問うものである。


Questions of Character 4: Do I have the Courage to Reconsider?

Okonkwoは安息日の失敗、Ikemefuna少年の事件、さらには銃の暴発によって村の若者を死に追いやってしまい、村から7年間追放されるといった様々な困難に直面する。彼には自分自身の価値観、信条を見直す機会を数多くあったわけだ。しかし、彼はひたすら自分を哀れみ、旧い規範をより深く心に刻み込むだけだった。彼とは異なり、経験から学び、自分の規範について考え直し、より深く広範なものへと変えていく他の登場人物たちには以下のような特徴がある。我々は彼らから多くのことを学ぶことができるだろう。

(1) Hard Questions
Okonkwoの息子Nwoyeは、父親とは異なり、自分の慣れ親しんできた慣習や信念の正当性を疑い、自分自身の規範をより深く理解していく。結果として彼はキリスト教に改宗する。

(2) Modesty and Openness
Okonkwoの叔父、Uchenduは、規範についての自省と再考を可能にするために、謙虚さとオープンさを大切にしている。

(3) Confronting Tough Realities
Okonkwoの友人、Obierikaもまた、今何が起きているのかをひるむことなく見つめ、受け入れる。彼の特質は知的な誠実さであり、個人的な信念の虜となってしまったOkonkwoとは大きく異なる。

(4) The Search for Wisdom
頑固な信念から自由になるための最後の方法は、ガイド付で知恵を探究することだ。このような方法は、あらゆる宗教にあるし、多くの哲学的な伝統の中にもある。Okonkwoの村のリーダーたちは、古くから伝わる箴言や物語を題材に議論した。

これらのいずれの方法も簡単にできることではない。どれも強さ、根気、決意を必要とするものである。残念なことに、Okonkwoは戦場での勇気は持っていたが、この面での勇気に欠けていたのだ。


Questions of Character 5: Can I Crystallize My Convictions?

リーダーは、自分の信念や考えを具体化し、それを、人々の価値観や感情に共鳴させながら力強く伝えられなければならない。彼の村が植民者たちに脅かされていたとき、誰よりもその脅威を理解していたのはOkonkwoであり、彼はこの点においては正しかったが、行動の人であることを自ら愛し、多くを語る人間を嫌う彼は、他のリーダーたちを説得することは全く出来なかった。また、Okonkwoは、自分自身の信念も深く考えた上で築き上げてきたわけではなく、若い頃に獲得したシンプルな価値観の奴隷になっていたに過ぎず、他のリーダーたちが持つ多様な価値観を理解することも出来なかった。リーダーの持つ規範は、個人的な信念以上のものでなければならない。コミュニティの他のメンバーの感情や関心に鋭敏な意識を持ち、彼らの信念や関心と深く融合したものでなければならないのだ。