ステップ⑤ エンパワーメント -起業変革力(7)-

企業変革力

企業変革力

第七章 従業員の自発を促す


多くの従業員が協力しなければ大規模な変革は進行しない。しかし、従業員が自分たちに十分な力がないと感じている場合、彼らは決して変革を支援しない、あるいはできない。そのため、変革の成功には従業員の自発的な変革努力を促進すること=エンパワーメントが不可欠の要件となる。


エンパワーメントを阻害しうる4つの要因

(1) 組織構造

組織構造からの障害があまりに強く、従業員がフラストレーションを貯めすぎると、彼らは変革に対する貢献意欲をすっかり失ってしまう危険がある。障害は素早く取り除かれる必要がある。

【問題の例】
組織構造上、リソースと権限が分散されており、個々の組織単位がセクショナリズムに陥っている。/本社・本部のスタッフ部門が手間と金のかかる手続やプログラムを強要する。/組織の階層が多く、ミドルマネジャーに大きな意思決定権が集中し、彼らが従業員の変革を阻害する。/組織変革の必要性が明らかであるのに、変革が実施されない。

【問題の原因】
現在の構造に長く慣れ親しみすぎて、他の組織構造の可能性が理解できない。/組織構造を変えることにより自分のキャリアに障害が生じるのではないかと不安になる。/同僚の経営幹部やミドルマネジャーとの軋轢を避けるため、組織変革を躊躇する。/ステップ①〜④が十分に確立されていない。


(2) 従業員の能力不足

適切な形の訓練を提供し、従業員が新しい体制の下で必要とされる技能を備えなければ、変革は頓挫する。

【問題の例】
変革による新しい体制に対応するために提供されるトレーニングが不十分、的はずれ、時宜を得ない。/技術は訓練されるが、新しい体制の下で仕事を進める上で必要となる社会的スキルや態度が教育されない。/新しい仕事を始める前には教育を受けるが、仕事を始めた後に出会う問題に対処するための支援は与えられない。

【問題の原因】
大規模な変革によって、どのような新しい行動、スキル、態度が必要になるかという点について深く検討されていない。したがって必要とされる訓練の適切な形式と量が不明。/何が必要かを認識していても、それにかかるコストに圧倒され、実現しない。


(3) 人事や情報のシステム

人々のモチベーションを左右する人事システム(業績評価、給与、昇進、後継者選抜等)や、業務や戦略形成を支援する情報システムが新しいビジョンの推進する価値に反している場合、従業員のモチベーションと変革の推進は停滞する。このような事態は頻繁に起こる。これらのシステムはビジョンに整合的に手直しされる必要がある。


(4) 強力な変革妨害者

社内で大きな影響力を持つ人物が変革を妨害する側に回ると、変革に必要な動きは停止する。また、そのような人物を変えるための対話がなされていない場合、それに気づいた他の人々も変革へのモチベーションを失う。このような事態は、変革妨害者に対して真正面から対決することへの罪の意識、躊躇、政治的な読み、短期的な業績悪化への懸念等によってもたらされる。

筆者の経験上、最善の解決方法は、この手の人物と誠意を持って対話をすることである。それも変革プロセスのできるだけ初期の段階においてだ。結論として全く解決が不可能であり、彼に降板願うしかない場合でも、その事実を早い段階で把握することが可能となるし、罪の意識も軽減される。もしその人物が変革に協力したいと願っていながら何らかの障害を抱えている場合には、その解決策を一緒に見つけ出すことも可能である。