モーターサイクル・ダイアリーズ
論理的には、あらゆることの選択肢がほぼ無限大に存在する。その無限大の可能性という、何も存在しないとほとんど同義の状態から、行動や変化を選び取るのは経験(real experience)が身体に刻み込んだ「思い」だ。また、死を絶えず意識せざるを得ない状況に生きている人は常に生の意味を激しく自分に問うており、その問いの深さもまた浮薄な選択肢の存在を排除する。
例えばキャリアの選択という誰もが悩む話を例にすれば、ドラッカーはこんなことを言う。
先進国社会は、自由意思によって職業を選べる社会へと急速に移行しつつある。今日の問題は、選択肢の少なさではなく、逆にその多さにある。あまりに多くの選択肢、機会、進路が、若者を惑わし悩ませる。(『断絶の時代』)
確かにそうだ。論理的には、あまりに多くの選択肢が存在する。頭「だけ」で考えて「本当に正しい選択」をしよう思っても無理だ。もちろん論理的な分析も必要だが、結局たった一つの道を選ばせるのは、その人の中に蓄積されてきた経験に根ざした思いしかない。その思いがなければ、あるいはその思いに向き合うことができなければ、多分幸福な選択はできないのだろう。
今回10日間ほど車でアメリカを一人旅して強烈に思ったのは、このような「経験」のインパクトだった。もちろん、頭ではそのインパクトを分かっていたつもりだったが、オンとオフの話と同様、それが身体で強烈に理解できた。それを最も強く感じさせてくれたのは、グランドキャニオンでもなく、デスバレーでもなく、ヨセミテでもなく、2300マイルのドライブでもなく、実はGoogle本社だったりするのだが、その話はまた別途。
前置きが長くなってしまったが、このような思いを改めて追体験し、確認できたのがこの映画。
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主人公のエルネスト(ゲバラ)は、恵まれた家庭の子息として、まさに「卒業旅行」という感覚で、遊びの旅に出る。旅の友アルベルトの「一つの町で一人ずつ恋人ができるといい」という言葉に彼らの旅の最初の動機のほとんどが表現されている。しかし、旅を進めるにつれ、エルネストは南米各地に実在する数々の不正義、不公平、不平等に触れていく。そして、それらの経験はやがて彼を卓越した革命指導者へと変貌させていく糧となるのだ。
本作では、彼をしてそのような生を選ばせることとなるreal experienceが非常に印象的に描かれている。金持ちのお坊ちゃんといった顔つきから、やがて非常に意志的な表情へと変貌し、成長していく様が美しく描かれてもいる。また、彼が目を背けることなく数々の不条理にまっすぐconfrontすることができたのは、彼自身が幼少から喘息に苦しみ、生というもののリアルな手触りをよく知っていたからだろう。その点も非常に効果的に描かれている。
ゲバラのことはほとんど知らなかったが、この作品を見て非常に興味が湧いてきた。また、彼と共にバティスタ政権を打倒し、キューバ革命を成し遂げたカストロの人生にも。世の中にはたくさん尊敬すべき人間がいる。